「え、ちょっ、ちょっと……」
希恵子は、とりあえずその手を振りほどこうと何度も腕を振る。
流せば済むとかすぐに終わるとか、そんな簡単な話ではない。
大袈裟でも何でもなく、これは人としての尊厳に関わる問題のように思えた。
他人、しかもこんな下種男の前で放尿をしてみせるなど、想像するだけでもうこの世界から消えてしまいたいような気持ちになる。
だが、尻込みする希恵子をよそに、黛は一向に手を離す気配がなかった。
「さあ、早く早く。急がないと漏れてしまいます。せっかくのショーですからね。これは是非特等席で見せてもらわないと」
ぎらついた笑みを顔に浮かべ、ほとんど正気とは思えないような言葉を吐きながら、なおもずるずる希恵子を引きずっていく。
「よっと」
小さなバスタブと一人分の洗い場しかない浴室に希恵子を放り込むと、
「そうですね……ではここに乗って、どうぞ」
浴槽の縁をぽんぽんと叩いた。
「え、えぇっ!?」
希恵子の顔色が、また変わる。
バスタブの縁に両足を乗せ、しゃがみ込みながら放尿をするなど、考えるまでもなく恥辱の極みとしか言いようがない。
「あ、危ない……ですよね?」
「ええ。でも床までの距離はできるだけ長くしておきたいんで」
やんわりとした希恵子の陳情をいともあっさりはねつけると、黛は正面に回って、根気よくシャッターチャンスを待つカメラマンのようにあぐらをかいて座った。
「あ、あの……本当に……本当にするんですか?」
希恵子が、怯えと羞恥の中間にあるような表情で尋ねる。
「ええ、もちろん。ささ、早いとこ垂れ流しちゃってください。何なら手伝いますよ? 腹を押すとか、クリトリスを弄るとか」
「け、結構です!」
じろじろと尿道口を眺めながら冷やかすように応じる黛に、希恵子の声が荒くなった。
「う、うぅ……」
それでスイッチが入ったのか、希恵子の口から微かな呻き声があがる。
いよいよ、限界。
(どうにか、我慢を……)
下腹部に力を入れて精一杯の抵抗を試みる希恵子だが、薬の力を借りた生理現象に、たかが人間の意志などが抗い切れるはずもなかった。
「う、あぁ……」
希恵子の股から、勢いよく小便が噴き出し始める。
安いタイルにこぼれ落ちた黄金色の聖水が、ぱしゃぱしゃと細かい粒になって跳ね、浴室に生温かい虹が架かった。
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