台所近くにある食事用の小さなテーブルに、希恵子と黛が正対している。
「なるほど。本当に料理上手ですね、奥さん。私、普段は外食ばかりなので、たまにこういう家庭の味に触れるとグッときます……おお、このスープなんか、お店でも出せそうですよ」
Tシャツにボクサーパンツ姿の黛が座っているのは、いつもなら和臣が使用する席。
すっかりくつろいだ様子でそんな感想を述べながら、希恵子の料理を美味そうにぱくぱくと口へ運んでいる。
「……」
黛に誉められても、希恵子は黙ったままだ。
その格好はといえば、生まれたままの姿にぴらぴらしたエプロンを一枚着けただけ。料理の出来がどうとか以前に、まずは自分のこの姿が恥ずかしくてしょうがなかった。
(うぅ……)
料理をしている最中から現在に至るまで、ねっとりとまとわりついて離れない黛の視線が、透き通るような希恵子の肌をほんのりと朱色に染める。
(何で、わたしが……)
こんな格好で、こんな男に料理を振る舞わなければならないのか。
自分自身の現状に対し、希恵子はやり切れない苛立ちを心の中に悶々と募らせていった。
浴室での行為を済ませた後も、黛との爛れた時間は続いている。
廊下で、トイレで、そして、ベランダで。
黛は小休止を挟んでは何度も陵辱の限りを尽くし、希恵子もまた忠実な下僕のように黙ってそれを受け入れた。
正直に言えば、黛のいつも以上にみなぎった精力にあてられ、身体の方はもうガタガタ。
だがそれでも、希恵子はこうして料理を作ってしまった。しかも、和臣に出すための練習と銘打って、わざわざあのスープの試作品まで用意してしまう手の込みようだ。
主婦の意地か、それとも単なる習慣か。
とにかく希恵子は自分でも不思議なほど手を抜くことなく、自慢の腕をきっちりすぎるほどきっちり、黛のために振るってしまった。
「ふう、食った食った」
目の前の料理を全て平らげた黛が、満足そうに腹を撫でる。
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