「ふふ、今日は調子がいいんでまだまだいけそうですよ」
その言葉通り、黛の一物は射精からほんの数秒も経たないうちにもう元気を取り戻し始めている。
「じゃあ次は、風呂場に行ってみましょうか」
「……」
黛の指示に従って無言のまま動き出そうとした、その時。
(……え?)
希恵子は、下腹部に妙な違和感を覚えた。
生理痛とか繰り返された抽送による痛みとか、そんなものではない。もっとより日常的な、毎日何度も襲ってくる感じの、むずむず。
それは――尿意であった。
「あ、あの……」
「ん? どうかしましたか?」
もじもじと言いずらそうに口を開く希恵子に、黛は何食わぬ顔で応じる。
「そ、その、ちょっと、お手洗いに……」
希恵子がたどたどしく、自らの要求を伝えた。
「ああ、トイレですか」
素っ気ない黛だが、実はこの事態は完全に計算通り。さっき希恵子の目を盗んでコーヒーに混ぜておいた利尿剤が、そろそろ効いてくる頃合いだった。
「うーん、それはちょっと面倒臭いですね。気持ちが切れて、萎えます」
「……え、えぇっ?」
当然のように吐かれた黛の台詞に、希恵子は耳を疑った。まさか、「トイレに行きたい」に否定的なニュアンスの言葉を返されるとは思ってもみなかったのだ。
「おしっこですか? それとも……」
「し、小です」
不躾に股ぐらを見つめる黛の質問を遮って、希恵子がもじもじと答える。
「ああ、そうですか。それはよかった」
あっさりした口調でそれだけ言うと、黛はひょいと顔を上げた。
「だったら、私に見せてください。奥さんがするところ」
「……は?」
希恵子は、美術室に置かれた石膏像か何かのようにぴしりと固まってしまった。
この男は、一体何を言っているのだろう。
信じられないとか有り得ないとか、そんなレベルの話ではなかった。
常識といおうか、良識といおうか。人間として大事なものが根本的に抜け落ちているとしか思えない、そんな申し出である。
だが黛はどうやら本気であるらしく、
「どうせ次は風呂場の予定だったんだし、ちょうどいいでしょう。なーに、別に部屋いっぱいまき散らすとかじゃないんです。ちょろっと出してシャワーで流せばすぐ終わり。それだけのことですよ」
しゃあしゃあとそんなことを言いながら、希恵子の手を引いて浴室に向かおうとした。
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