三島康太(みしまこうた)の胸は、高鳴っていた。
初めて出来た彼女への、初めてのサプライズ。
そんなイベントを起こせる日が自分に来るなんて、思ってもみなかった。
「じゃーん!」
「え、うそ? 康太? 何で何で? 用事があるんじゃなかったの?」
「そんなわけないだろ。今日は美奈と付き合って半年の記念日だもんな」
「えー? 覚えててくれたんだ。やだ、すっごい嬉しい」
「……むふふ」
最愛の彼女、池田美奈(いけだみな)とこれから交わすだろうやり取りを想像して、康太は一人にやにやと口元を緩めた。
小柄だがバランスの取れたプロポーション。
背中に伸びたさらさらの綺麗な茶髪に、細く整った眉とぱっちり大きな目。
通った鼻筋に、潤いたっぷりの唇。
はにかむような笑顔と、時折のぞくチャーミングな八重歯。
美奈の全てが、康太にとってはどんな天使や妖精よりも愛らしく、魅力的に思えた。
「へへへ……」
電車の吊り手にぶら下がって頬を赤らめる男子に座席の老婆が不審の目を向けたが、そんなことは関係なし。濃厚な愛情汁でじゅぶじゅぶになった脳は、ほんのり甘い幸せ色の白昼夢をこれでもかとばかり康太に見せ続けていた。
(それにしても……)
流れゆく車窓の風景を遠目に眺めながら、康太は美奈とのなれそめへと思いを馳せた。
美奈は元々サッカーが好きで、練習をよく見に来ていた。
試合の応援にも頻繁に姿を見せ、他校に遠征する時でも近場なら必ずグラウンドに現れた。
「いいよなー、美奈ちゃん」
「あんな彼女いたら、俺すっげーやる気出る」
「ほんと、シュートでもパスでもがんがん決められそーだぜ」
こういった会話が日常になるほど、美奈に想いを寄せている男は多かった。
だが有望株が互いに牽制し合った結果なのか、いつまで経っても美奈に彼氏が出来る気配はなかった。
そこに動いたのが、康太だった。
登録はフォワードだが、控え選手。それもスーパーサブなんてご立派なものではなく、終了間際に出場して時間を稼ぎ、チームの逃げ切りに貢献するという「終わらせ屋」の役ばかり。
たまに長い時間出ることがあっても、見た目と同様の地味なプレイしかできないため、豪快なシュートや華麗なパスで目立つ展開などは望みようもない。
そんな康太が突然行動を起こしたことは周囲に驚きをもって迎えられたが、だからといって並み居るライバル達が焦り、嫉妬するようなことはまるでなかった。
それどころか、
「三島が美奈ちゃんに告白するだぁ? うーわ、何それ。超おもしれーんだけど」
可愛くて人気のあるサッカー部のアイドルにパッとしない「終わらせ屋」が突撃する構図は部員一同の失笑を買い、ついには心ない冷やかしの餌食となる始末であった。
「つーかそんなの鼻で笑われて終わりじゃんよ、普通に」
誰かが言ったこの言葉が、全員の抱いた気持ちを的確に代弁していた。
康太の恋が成就するなんて、誰一人考えもしなかったのだ。
実を言うと、康太本人も上手くいくとは思っていなかった。
勝算なんてどこにもないが、とにかくこの気持ちを伝えるだけ伝えたい。
康太の心は、ただその一点にのみ集中していた。
――だが、あの日。
「ずっと、好きでした。俺と……付き合ってください」
「うん……いいよ」
奇跡は、起きた。
一度きりのアタック、玉砕は当然覚悟の上と腹をくくって告白した康太に、美奈はそこらの量産型アイドルよりよほど素敵な笑顔で応えてくれた。
『……は?』
結果を知った周囲の男達はそう言ったきり、呆然と言葉を失うばかりだった。
康太に怒りを覚える者。
美奈に幻滅してしまう者。
ただ自分の無力を恥じる者。
人によって反応はまちまちだったが、全ては後の祭り。結局最後は、狐につままれたような顔を見合わせながら、皆で黙り込むよりほかなかった。
「マジかよ、信じらんねーな。お前、夢でも見たんじゃねーの?」
「うん……なんか、俺もそんな気がする」
茶化す友達に返した康太の言葉は、嘘偽りのない、心からの本音であった。
康太が自分でも驚くミラクルシュートを決めたあの日から、半年。
二人の交際は順調に続いており、恋人同士の様々なイベントを楽しくこなしながら充実した日々を送っている。
もちろん、エッチもした。
初めての時はあまりの感動と興奮で、何回も動かないうちに射精してしまった。それからも何度か交わったが、康太はいつもあまり長持ちしないままに絶頂を迎えている。
(そこはちょっと情けないけど……)
それでも、康太はとにかく幸せだった。
美奈が自分だけに特別な笑顔を向けてくれる。その事実は何にも代えがたい多幸感を康太に与えてくれた。
「次は、〇〇町、〇〇町。お降りの方は――」
車内にアナウンスが流れ、ほどなく電車がホームに停まる。
降りるのは次の駅。そして美奈の家までは、そこから歩いて五分ほど。
「……むふふふふ」
康太は頬が緩むのをどうにも抑えることができなかった。座席の老婆に続いて隣に立つ中年サラリーマンも変な顔をしたが、無論そんなことは全く気にもならない。
もうすぐだ。
もうすぐ美奈に会える。
いきなり訪ねて驚かせて、お茶でもして、いいムードになって、それから――。
「……ん?」
康太はふと、正面に目をやった。
逆方向に向かう電車が滑り込んできて、狭いホームにひしめき合うように並ぶ。分厚い窓を二枚隔てて、向こう側の車内がまる見えという構図になった。
(……おいおい)
康太の目にいきなり飛び込んできたのは、いわゆるバカップル。
小柄で髪の長い女が、上背のある男の胸にべったりとしがみつきながら、顔を上げてやたらキスをせがむ様子が否応もなく視界に収まる。
(ああはなりたくないもんだ)
康太は己のデレデレっぷりを棚に上げながら、いかにも嘆かわしいといった顔で首を小さく横に振った。
自分と美奈は、決してああいう真似はしない。周囲に迷惑をかけないように、節度を守った付き合い方をしていこう。
そんな決意を新たにしつつ、康太はもう一度正面のカップルをちらりと見てみる。
「……あれ?」
男は、よく知った顔であった。
西崎潤(にしざきじゅん)。
同じフォワードで康太の一年後輩にあたる。裏をかく飛び出しや股を抜くドリブルといった敵をおちょくるプレイが得意な選手だ。いつまでたっても「終わらせ屋」の康太と違い、次の大会ではエースストライカーの座を手にすることが確実な逸材でもある。
いかにももてそうなイケメン選手ということで美奈の彼氏候補にリストアップされたこともあったが、本人のコメントは「まさか」の一言。かといって他に付き合っている子がいるでもないため、部内では「潤はサッカーにストイック」という評価がすっかり固まっていた。
(あいつ、彼女いたのか……)
まるで女っ気のなかった潤がいきなりバカップルの片割れとして現れたことに、康太はごく単純な驚きを覚えた。
(一体、どんな……)
悪いとは思いつつも興味が勝り、相手の女を覗き見るように腰を屈め、足の位置を変える。
「――!!」
だが女の顔が目に入ったその瞬間、康太はかっと大きく目を見開いたまま、石化の魔法でもかけられたようにその場で固まってしまった。
(……み、美奈!?)
思わず叫びそうになるのを何とか抑えながら、もう一度確認するように、潤の隣に立つ女をじっと見つめる。
「や、やっぱり……」
間違えようなど、あるはずもなかった。
甘えるように寄り添って、笑いながら潤の持つスマホを覗き込んでいるのは、まぎれもなく康太の彼女、池田美奈である。
「な、何で……?」
康太は一言、放心したように呟いた。
有り得ない。
あの美奈が。
美奈に限ってそんなこと、あるはずがない。
「そ、そんな、そんなこと……」
康太はもう一度、反対側に停まる電車の中を食い入るように見つめる。
間違いであると、思いたかった。
他人の空似だと、確認したかった。
安心して、自分の早とちりを自分で笑ってやりたかった。
だが、しかし。
「……!」
康太の両目に映ったのは、自分には今まで一度たりとも見せたことがない、美奈の心からの笑顔。
そして、
「や、やめろ……」
餌を待つ雛鳥のように唇を差し出す美奈に潤がついばむようなキスを与える、決定的瞬間。
「あ、あ、あ……」
「ドア、閉まります。ご注意ください」
血の気を失う康太をよそに、車内には無機質なアナウンスが流れた。ドアが閉まり、電車は一度大きく揺れてから、再びゆっくりと走り始める。
「あ……」
人目もはばからずに口づけを交わす潤と美奈の姿がみるみるうちに小さくなり、やがて粒となってはるか遠くへ消えていった。
「……」
康太は吊り革をつかむことも忘れて、ただ呆然と車内に立ち尽くしている。
さっきまでの浮かれぶりとは一転、今度は顔面蒼白となった少年に、乗客の訝しげな視線が続々と集まってきた。
「!」
ガタンゴトンと単調な音だけが響く車両を、突然深い闇が包む。
入ったのは、長いトンネル。
狭い空間に入ったことでいきなり質の変わった滑走音が、耳障りにこだまして康太の鼓膜をごうごうと鳴らした。
「……」
康太は思考を停止したまま、窓の外に広がる漆黒をぼんやりと眺める。
(……え?)
目の前に、有り得ない二人の有り得ない姿が、何の前触れもなく浮かび上がってきた。
「よっ……と」
犬のように四つん這いになった美奈に、潤が後ろからずぶりとペニスを挿入した。
「あっ、あぁっ! いい、いいのぉ!」
まだ入れられただけにもかかわらず、美奈は左右に首を振ってよがりながら、卑猥な動きでいやらしく腰をくねらせる。
「おお、もうぐっちょぐちょ」
ウォーミングアップのように軽く腰を前後させながら、潤はにやりと口角を上げて笑った。
「美奈、ほんと欲求不満だったんだな。康太先輩のせいで。でも、俺のなら大丈夫だろ?」
「う、うんっ! いいっ! 潤くんの、すごくいいぃ!」
「へへ、じゃあそろそろ本気で動くぞ。一試合走り通すこともできないスタミナ不足の先輩と違って、俺の脚は鍛えられてっからな。ハイパーピストン、たっぷり味わえ」
「う、うん! きて! 早くきてぇ!」
「うお、えっろい顔……ふんっ!」
情欲を隠すこともなくねだる美奈を興奮の面持ちで一瞥してから、潤は腰に力を入れて熱い肉棒を膣の奥へと押し込んだ。
「ああぁっ!」
そのひと突きだけで、早くも美奈は頭を跳ね上げながら甲高い声で絶叫する。
「おらおらおらおら!」
潤は一気にピストンを加速させ、抽送はあっという間に最高速度へと到達した。
引き締まった潤の大腿筋が、美奈の小ぶりながら柔らかな臀部を叩いて、ぱんぱんと軽快な音を響かせる。
「い、イく! イッちゃう! 潤くんの! いいの! いいの! いいのおおぉっ!」
「いーいーうるせーんだよ、このエロ女! おら!」
ヒステリックなほどの嬌声を上げる美奈の髪を、潤の両手がまとめて引っつかんだ。
「こうか! おら、こうかよ! あぁ!?」
「んっ! ひぃっ! い、いぐ! ひぐぅ! んああぁ!」
流れるような薄茶色の御髪で綱引きをしながら、残忍な凶暴性を剥き出しに尻を突きまくる潤に、美奈も正体不明の獣のような凄まじい喘ぎ声で応じる。
「おっしゃ、出すぞ! 口開けろ!」
潤が美奈の小さな頭をわしづかみにして、振り回すように乱暴な動きで股間へ近づけた。
「ん、んぐううっ!」
てかてかと艶めいた美奈の唇に、怒張した潤のペニスが力任せにねじこまれる。
「まずは口マ○コだ! おら! おら! うぉらぁ!」
潤が猛烈に激しい出し入れで一気にフィニッシュまで持ち込むと、
「ぐ、ん……んぐ、う……」
美奈はあごが外れそうなほど大きく開けられた口内に吐き出された白濁を一滴残らず丁寧に嚥下してみせた。
「ぷはぁ……」
たっぷりと射精してひと息ついた潤が、まだ硬さを失わないペニスを、美奈の頬肉をこそげ取るようにずるずると引き抜く。
「ふん……ふんっ」
そして尿道に残った精子を美奈の顔に振りかけると、亀頭の先でぐりぐり、マーキングでもするようにまんべんなく塗りたくった。
「ん、んん……」
されるがままに潤の無体を受け入れながら、美奈は細い舌をちろりと出して口周りについたザーメンを軽く舐め取る。
「ふふ、潤くんの、美味しい……」
独り言のように呟く美奈の表情は蕩けるような恍惚に満ちており、その瞳には不気味なほど妖艶な光が宿されていた。
トンネルを抜けた電車が、穏やかな陽射しの中を軽快に走っていく。幻影はいつの間にやら消え去り、車窓を流れるのはいつもと変わらぬ平凡な街並みだ。
「……」
康太は黙ってうつむいたまま、ぼんやり目に映る自分の足を見るでもなしに見つめている。
まさか。
いくら何でも、そんな。
こんなの、バカバカしいにもほどがある。
頭をよぎった妄想を打ち消すように、康太は否定的な見解をいくつも重ねた。
(でも……)
これは本当に、単なる被害妄想なのだろうか。
知らぬは自分ばかり。
その可能性は確かにあるのだ。それはもう、十分すぎるほどに。
「くっ……!」
康太の動悸が、急に激しくなる。
――今にして思えば、兆しはあった。
それは、チームのフォワードが集まってサッカー談義をしていた時のこと。
「俺、人のもん盗るの好きなんすよね。自分で組み立てるより、誰かが持ってるものを横からかっさらっていくのが楽しいタイプ。で、盗ったらあとは好き放題って感じで」
潤はさらりとそんな言葉を口にした。
それを聞いた時、康太は普通にサッカーの話だと受け止めた。
相手の持つボールを奪って、自在にゴールを決めるのが楽しい。そんなちょっと性格の悪いプレイスタイルを自慢げに披瀝したという、ただそれだけのことだと思った。
だが、あの時。
潤は確かに、康太の目を正面に見据えながらそう言ったのだ。
今まで気に留めたこともなかったが、もしもあの言葉がボールでなく、美奈のことを指していたのだとしたら――。
「……!」
背筋に、悪寒が走った。
(そういえば……)
康太の脳裏に、ロッカールームで着替えをする潤と、それを取り囲む連中の姿がまざまざと蘇ってくる。
「おい、潤。お前、チ○ポでかすぎだろ」
「うおお、すっげー。でもそんなんじゃボール蹴る時、邪魔じゃね?」
「それ突っ込まれたらたいていの奴はひーひー言って喜ぶよな、きっと」
「よし、じゃあお前、一発ケツにぶちこまれてみろ」
「いやいやいやいや、何でそうなる」
康太は離れた位置から遠巻きにちらりと見ただけだが、それでも自分では到底かなわないとすぐ白旗を上げたほど、潤の一物は強烈だった。
(あれ、なら……)
美奈を満足させることができない自分に代わり、潤が悦びを与える存在になったとしても、何ら不思議はないような気がした。
「次は××坂、××坂。お降りの方は――」
無機質な案内が流れて電車が駅に到着すると、康太は吸い寄せられるようにドアへ向かい、静かにホームへと降り立った。
美奈の住む街の、通い慣れた小さな駅。
ここで降りることに、もう意味はない。
頭の片隅にぼんやりとそんな自覚はあったが、それでも康太の足は勝手に動き、備えつけのベンチへと進む。
「どう、しよう……」
がっくり肩を落としながら固い椅子に座り込むと、康太は逡巡するようにそう呟いた。
さすがに、美奈の家まで行く気にはなれなかった。
改札を出て、駅前通りを抜け、脇道から緩やかな坂を登る。
その先に建つのは、決して大きくはないが、瀟洒で趣味のいい洋風の一戸建て。
そこで自分をかいがいしくもてなしてくれる美奈を見て、もし結婚したら将来きっとこんな感じになるんだろうな、などと幸せな未来予想図を心の中に描く。
そんなごく当たり前だった日常は、もうどこを探しても見つけることができないのだ。
「どうよ? こうやって抱えられながらぶちこまれるのは?」
「おっ、奥! 奥に当たって、気持ちいぃのぉ!」
「だろ? 康太先輩にはできねーよな、こんなこと! そら、イけ!」
「あ、うぁあああっ!」
「ほら、このリビングでも先輩とやったんだろ!」
「あ、う、ううんっ! してない! 家では、なんにも、してないのぉっ!」
「はんっ! じゃあまた俺の圧勝ってことだな! もっとも、先輩なんかじゃはなっから俺の
相手にはなんないけどよ!」
「う、うぅん! あっ、あっ、あああぁっ!」
「今度は乳マ○コだ! おら、挟め!」
「む、無理だよぉ! したことないし……そんな、おっきくないからぁっ!」
「は!? したことない!? どんだけどんくせーんだよあの人! なら寄せろ! ほら!」
「んっ! んんっ!」
「おら、おら、おら、おら、おらぁ!……ふしゅっ!」
「あっ! あぅっ!……う、うぅ……もう……顔、ベタベタ……」
仮に無理を通して美奈の家に押しかけても、待っているのはこういった見たくもない痴態と聞きたくもない嬌声に違いなかった。どこを見ても、何をやっても、とめどない妄想が頭から離れず、最後には心のどこかが壊れてしまうに決まっている。
「……帰ろう」
康太はのっそりと立ち上がってとぼとぼと情けない足どりで階段を登ると、改札を出ないでそのまま反対側のホームへと降りた。
そして再びベンチにどっかり座ると、電車を待ちながら少しずつ、ヒビの入った心の整理を始める。
「取られたん……だよな」
いきなり、重い言葉が漏れた。
妄想はともかくキスシーンを目撃したのは確かなのだ。既に美奈は潤のものになっているとみて間違いないだろう。
「……はは」
もう、笑うしかなかった。
こんなの、よくあること。
元々自分なんかにはもったいない彼女だった。
潤なら、美奈とも釣り合いが取れる。
結局収まるべきところに収まったという、ただそれだけの話だ。
「取ら……れた……」
散々自分を守るための思考を巡らせてから、改めてそう口にしてみると、その惨めさが嫌というほど噛み締められた。
「美奈……」
康太がぽつりと、奪われた彼女の名を呟く。
その一言をかき消すように、通過の特急が轟音と爆風をまき散らしながら、康太の前を通り過ぎていった。
それと、同時に。
「!」
康太のスマホが、ポケットの中でぶるぶると震えた。
届いたのは、二通のメール。
「……」
それは予感というべきか、それとも確信というべきか。
康太は気持ちを鎮めるように一度深い息を吐くと、おぼつかない手つきでスマホを操作し、虚ろな目でメールの中身を確認する。
一通は、美奈から。
「ごめんね」
題名欄の四文字が全てを物語る、康太に向けた簡単な別れの挨拶であった。
そしてもう一通の送り主は、潤。
「ばれちゃったんで」
タイトルだけで本文のないそのメールには、数枚の画像と一本の短い動画が、開かれるのを今か今かと待ちわびるようにちんまりと添付されていたのであった。
※おまけストーリー『サプライズ ――Goal――』はこちらから!
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一気読みしちゃいました。
サプライズが一番このみのシチュエーションでした。
技術も上な後輩に寝取られる、そそりました。
「ばれちゃったんで」という最後のメールも、えげつねー(笑)
新作も楽しみにしてますー。