時の流れが、現実へと戻る。
「そう……だよな」
噛み締めるように、和臣が呟いた。
昔も今も、希恵子への気持ちは変わらない。
いつだって希恵子は、和臣にとって最高の女性。誰よりも大事にしなければならない愛妻であり、何よりもかけがえのない存在なのだ。
「なのに……」
温和な和臣の目が、僅かに険しくなる。
自分は、ヘマをした。
生活を、夫婦の関係を、人生を、何もかもぶち壊しにしてしまうところだった。
今だって、希恵子に大きな大きな隠し事をしている。
罪悪感はもちろんあるし、もしばれたら全てを失ってしまうという危機感も、借金を作って以来ずっと消えることがなかった。
「でも……」
まだ、間に合う。
黛との幸運な出会いにも助けられ、今はまだ土俵際ぎりぎりのところで踏みとどまることができている。
和臣は、そう思っていた。
だからとにかく、今は頑張らないといけなかった。
自分と、自分を支えてくれる黛のために。
そして何より、大好きな希恵子のために。
「よし」
自分にできることを精一杯、とことんまでやろうと、和臣が改めて心に誓いを立てる。
「じゃあ、もうひと踏ん張り」
気を取り直して、またモニターと向き合い始めた。
だがすぐに、机の上に放り出していた携帯電話のアラームがけたたましく鳴る。
「あ、もうこんな時間か」
見れば、黛と約束した時間が刻一刻と近づいていた。
「やれやれ、今日はここまでか。まあ、しょうがないな」
ちょっと拍子抜けした顔でそうこぼすと、和臣はパソコンの電源を落としていそいそと帰り支度を始めた。
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