「はい」
意外なことに、希恵子の返事は即答。
「……はい?」
「ですから、はい」
「はい?」
「はい」
「……OKって……こと?」
「はい」
「……」
しばらく、和臣が黙った。
そして。
「う、うわひゃああああ!」
自分がとてつもない幸運をその手につかんだことを知って、突然意味不明な叫び声を店中に響き渡らせた。
「え、お前が!? よりにもよって、お前が!?」
「うーわ、抜け駆け。ねーわー、それ、ねーわー」
「つーか古沢、犯罪行為で希恵子ちゃんを手に入れたなら今のうちに警察行っとけ。な?」
分不相応にも学内のアイドルを射止めてしまったため、和臣の周囲からはそんな怨嗟の声が次々とあがった。それでも直接言ってくれるのはまだましな方で、本人の知らないところではもっと酷い陰口が公然と叩かれていたらしい。
「何で、僕と付き合ってくれたの?」
交際を始めてからしばらく経った頃、和臣は希恵子にそう聞いてみたことがある。
正直言うと、和臣自身も訳が分からなかったのだ。
見た目も能力もせいぜい十人並みかそれ以下。こんな自分を選んでくれる理由が、和臣にはどうしても思い当たらなかった。
「和臣さんは他の人達と違って怖くなかったから」
希恵子の答えは、またまたあっさり。
「この人だったら、自分のことを本当に大事にしてくれる。そう思ったの」
そしてさも当然のように続けてくれたこの言葉は、和臣にとって何にも代えがたい、一生の宝物となった。
「大事に、大事にするよ。希恵子さんのこと、ずっと」
「うん。分かってる。ありがとう、和臣さん」
たどたどしく宣言する和臣を、希恵子はにっこり笑って優しく受け止めてくれた。
希恵子と見つめ合った、その時。
何だかいつもより、世界が明るくなったような気がした。
あの頃、全てが――幸せだった。
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