「……」
下腹部に、そっと手を伸ばす。
昨日の興奮が蘇って、まだ少し黛の余韻を残す股間がじわりと疼いた。
「いえ、いいえ!」
思わず、声が荒くなる。
性的に興奮したからといって、それが何だというのか。
人間にとって最も大事なものは、愛情。
それがない交わりなど、単なる獣の所業でしかない。脅迫でもされなければ、そんな行為に身を委ねることなど決して有り得ないのだ。
溺れてなんか、いない。
快楽に呑まれてなんか、いない。
負けてなんか、いない。
「っ……」
腹の底から、苦い塊のようなものがこみ上げてくる。
もう一歩でも進めば間違いなく嗚咽になるその感情を、希恵子は喉を詰まらせながら懸命に胃の腑へ飲み下した。
「ふう……」
小さく息を吐いて頭を振ると、手にした下着をすぐに干す。
(早く忘れたい……いえ、忘れないと)
残りの洗濯物も手早く片づけてしまうと、希恵子は気分を切り替えるように、よし、と一言呟いた。
とにかく、事態は動き出してしまったのだ。
もう、後に退くことはできない。
「たった、三ヶ月だもんね」
自分自身に言い聞かせるように囁かれた希恵子の声が、風にはためく洗濯物の壁に遮られてどこへともなく消える。
「さ、おしまいおしまい」
ことさらに明るい声で言いながら、希恵子は部屋に戻った。
「次はお掃除っと」
窓を閉めた時、ちらりと視界に入った左手薬指の輝きを、希恵子はわざと見ないようにして前を向いた。
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