2
黛との情事から、一夜が明けて。
「はぁ……」
和臣をいつも通り会社へ送り出してから、希恵子はせっせと洗濯に励んでいた。
昨日洗濯物を溜め込んでしまったせいで、平屋の狭いベランダには洗いたての服やタオルがびっしり、ところ狭しと並んでいる。
「よい、しょっと」
身を屈めて、洗濯かごに手を伸ばした。あとはこの下着類を角型ハンガーに吊るせば作業は全て終了。
「あ……」
だが最初の一枚を手に取った瞬間、希恵子の顔が強張った。
それは、昨日黛に、夫以外の男に初めて晒した、白いレースのパンティー。
「いやあ、実に素敵な時間でした」
全ての行為を終えて着替えた後、大した疲労も見せずにそう言って笑った黛の顔が、脳裏にまざまざと蘇った。
「っ……」
下着を握る手に、力がこもる。
(あんなこと、四度も……)
とことんまで組み伏せられ、突き上げられ、精を注ぎ込まれた。
どれだけ心が拒否しても、身体の方は黛の凶暴なまでにオス臭い男性自身に、完璧なまでの屈服を強いられてしまった。
特に最後、風呂場での四度目。
「あぁっ! イクっ、イクっ! ああぁーーーっ!」
あの時、希恵子は確かに涎を垂らした。だらしなく大口を開けて、我を忘れたような大声でよがりによがってしまったのだ。
決して、認めたくなどない。
だが、あの感覚は、間違いなく――。
「い、いいえ、いいえ」
希恵子は何度もかぶりを振ると、頭をよぎる卑猥な思考を力ずくで追い払った。
そんなことはない。
あんな愛情のかけらもない身体だけの結びつきで、気持ちよくなどなるはずがない。
「和臣、さん……」
夫の名をぽつりと呟くと、希恵子は左手薬指の指輪に視線を落とした。
それは、どれだけ経済的に困窮しても、身体のつながりなどなくても、決して揺らぐことのない和臣と自分との、絆。小さな宝石さえついていない、本当に金属が輪になっているだけの質素な品だが、それでも希恵子にとっては生涯の宝だ。
(そういえば……)
不意に、和臣と初めて結ばれた時の記憶が、浮かんできた。
※全文をまとめ読みしたい方はこちらから!
- 関連記事
-