「き、気楽になんて……」
希恵子には、考えられるはずもなかった。
どれだけ上辺を取り繕ってみても、今からすることは所詮、ただの不貞。
着替える時間こそなかったが、それでも玄関先で咄嗟に結婚指輪を外したあたり、希恵子は自分でも半ば無意識のうちにそれを理解していた。
(和臣さん……)
心の中で、夫の名を呼ぶ。
大事な人。
ただ一人の、愛する人。
それを、こんな形で裏切りたくなかった。
かけがえのない愛情を壊すような真似を、したくなかった。
だが、それはもうかなわない。
「……ふぅ」
気持ちを切り替えるように、希恵子が浅い息を吐く。
(大丈夫……大丈夫よ)
中学生や高校生でもあるまいし、男に抱かれるくらい大したことではないだろう。
どれだけ身体を奪われても、心を折られさえしなければそれでいい。
今からしばらく人形になって、ただこの時間をやり過ごすだけ。それで、終わりだ。
「さて、と。では、ぼちぼち始めましょうか」
希恵子の気持ちを見透かしたように、黛が声をかけた。
「とりあえず脱ぐもの脱いで、全部見せてください」
「!」
簡潔な黛の言葉に、希恵子の肩がびくりと震える。
覚悟は、できた。
その、はずだった。
なのにいざその時を迎えると、心と身体がどうしようもなく拒否反応を示してしまう。
「どうしました?」
「い、いえ、別に」
黛の問いにそう答えると、希恵子は表情を強張らせながらぎくしゃくと両腕を上げ、清楚に着こなされたブラウスのボタンに手をかけた。
上から順にボタンを外すと、胸元が徐々に開いていく。
たわわに熟した乳房をしっとりと包み込んだ白いレースのブラが、服の隙間からちらちらと見え隠れした。
はらりと、ブラウスが落ちる。
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