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愛のすきまで交わって・4

「最初は、ちょっと小遣い稼ぎをするだけのつもりだったんです。希恵……妻には僕のせいで苦労ばかりかけてますから、少しでも家計を楽にできればと……なのに、何で、こんな……」
 黛はレコーダーの電源を切ると、そのまま機体をスーツの内ポケットに戻した。
「ま、お聞きの通りです。奥さん思いのいい旦那さんですね、和臣くんは」
「……」
 ほとんど嫌味にしか聞こえない黛の言葉を、希恵子は沈黙で受け流した。
 和臣は演技ができる性格ではない。嘘をつけば声や態度にはっきり出る。それがこうも真に迫った言葉を吐くということは、借金は存在するとみて間違いないのだろう。
 実際、古沢家の財政事情は苦しかった。
 和臣の勤務する会社は元々社員の待遇がいいわけではなく、当然給料も安い。
 和臣自身も決して要領のいいタイプではなく、ほどほどに働いて報酬だけ手にする発想とは無縁。それどころか、定時に仕事が終わらないのは自分の責任だからと進んでサービス残業をするほど生真面目な性格であるため、収入アップなどは初めから望むべくもなかった。
 希恵子も家計を預かる主婦として精一杯切り詰めてはいたが、それにも限界がある。
「わたしも、何かお仕事した方がいいと思うんだけど……」
「うーん……それは……どうかなあ……」
 一時はパートに出ることを考え、和臣に相談してみたこともあったが、返事はあまり芳しいものではなかった。
 多分、男のプライドというやつだろう。
 希恵子からすれば何とも理解に苦しむ感情ではあったが、それでも夫を傷つけてまで働きに出るのは自分の意に反した。
 だが――。
(あの時、わたしが……)
 多少無理を言ってでも働きに出ていれば、こんなことにはならなかった。
 自分の遠慮が最悪の方向に転がってしまったのを悟って、希恵子は深い後悔の念を覚えずにいられない。
(気づいてすら、あげられないなんて……)
 いかに夫を信じて疑うことがなかったとはいえ、隠し事の下手な和臣のこと、注意深く観察すれば必ずどこかに異変は見えたはずだ。
 にもかかわらず、希恵子はぼんやりと日常を過ごすうちにそれを見逃してしまった。
 別にわたしが借金を作ったわけではない。
 いくら夫婦でも、打ち明けてくれないものは分かりようがないだろう。
 そもそも働きに出なかったことだって、夫の強い意志を尊重したからではないか。
 そんな風に自分を正当化して、全ての責任を和臣に押しつけることができれば、話は簡単に終わったかもしれない。
 だがそれをするには、希恵子の性格はあまりに潔癖で、あまりにも純真すぎた。


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[ 2017/11/27 11:17 ] 長編NTR 愛のすきまで交わって | TB(-) | CM(0)
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