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奪われた女たち――母は、親友と――・38

「そうだよ。産んでほしいんだ、俺の子供」
「……!」
 瞬間、千織の顔にぱっと喜びの光が差した。
「で、でも、そういうのって、その……」
 だが、すぐ気持ちを抑えつけるように目を逸らすと、煮え切らない態度でもごもごと言葉を濁す。
「ダメなら言って。今、ここで」
「……」
 強い意志のこもった龍星の目を、千織は正視することができなかった。
 澄んだ瞳は居場所を探すようにちらちらと動き、艶めいた吐息には隠し切れない迷いの色がにじむ。
「っ……っ……」
 時間が止まったような、静寂。
 その中に、愛情の全てを注ぎ込むような龍星の抽送音だけが微かに、ゆっくりと響いた。
 ――やがて。
「うん……」
 千織の口がゆっくりと、スローモーションのように動く。
「わたし、産みたい……龍星くんの赤ちゃん、産みたい……」
「うぉっ!」
 その決断を耳にした瞬間、龍星の顔に弾けるような笑顔が浮かんだ。
(なっ……そん、な……)
 一方友樹は、悄然とした顔でがっくりとうなだれる。
 もうすぐ母は、自分だけの母ではなくなってしまう。
 その事実を今、これ以上ないほど分かりやすく突きつけられてしまったのだ。息子として、こんなに悔しいことはない。
「っ……うぅっ……」
 鼻の頭がつんと熱くなる。しゃくるような嗚咽がこみ上げてきた。みるみるうちに目の前がぼやけてくるのが、ますます情けなさを膨張させる。
「ありがとう、千織さん。俺、千織さんのこと、絶対大事にするから。何があってもずーっと一緒にいるから」
「ええ、ずっと一緒。龍星くんとわたし、ずっと一緒よ」
 愛の言葉をささやき合い、ついばむような口づけを交わしながら、龍星と千織は再び営みを始めた。
「うわ、千織さんの中、もうとろっとろ」


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[ 2017/11/21 12:18 ] 奪われた女たち 母は、親友と | TB(-) | CM(0)
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