そう言って龍星が向かったのは、仏間。
さっきまでの神妙な態度はどこへやら、滾ったオスの顔で喪服姿の未亡人をすたすたと奥に運んでいく。
「ま、待て!」
敷居をまたごうとする龍星の背中に、友樹が声をかけた。
「な、何言ってるんだよ、こんな日に……」
やっとのことで、そう絞り出す。
「こんな日にって……お前こそ何言ってるんだ? 友樹。こんな日だから、だろうが」
首だけを後ろに向けて振り返ると、龍星はこともなげにそう返した。
「言っただろ。旦那さんに話をするって。墓じゃなくて仏壇にいたら悪いからな。こっちでも一応やっとくってことさ」
「っ……」
とんでもないことをさも当然のように語られ、友樹の心がぞわぞわと不気味に波立つ。
「か、母さん……」
すがるような目で、千織を見つめた。
さすがにこれはない。この状況なら、きっと自分に助けを求めてくれるはず。そう信じて、ありったけの思いを眼差しに込める。
だが、千織と視線が交錯することはなかった。
「……」
母はベールの向こうで気まずそうに目を逸らすと、言葉を知らない幼子のように黙り込み、そっと龍星の首にしがみついてしまった。
「へへ、そういうこと。俺、今日はかなり本気でお前の母さんとセックスするからさ。何なら目の前で見てもいいぜ? のぞきなんてケチな真似しないで」
「なっ……!」
品のない友人の物言いに、友樹の顔が歪んだ。龍星への怒りと、自分の行為が筒抜けだった恥ずかしさが相まって、両の拳がわなわなと震える。
「ま、その気になったらいつでも来いよ。俺はギャラリーなんていない方がいいんだけどさ。お前は特別だ。ご招待ご招待。それに……」
ふざけた調子のまま、龍星が言葉をつないだ。
「どうやら息子に見られると燃えちゃうタイプみたいだしな、お前の母さん」
「っ……!」
友樹はビンタでも張られたように顔を歪めた。耳の奥でツーンと音が鳴り、まぶたの裏側がちりちりと、花火のように燃える。
「じゃあな、友樹」
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