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奪われた女たち――母は、親友と――・30

          5 情交の果て

 夏の陽射しが照りつける中、友樹は父親の墓参りに訪れた。
「ようやくだね」
「ええ、挨拶してあげて」
 目の前では龍星と千織が手をつないで並んでいる。家を出てからここまで、その手は一度も離されることなく結ばれたままだ。
 千織は純黒のドレス姿。父が亡くなって十年経つが、ちゃんとした喪服でここを訪れるのは葬式以来になる。
 龍星もまた、スーツを着用していた。
「旦那さんにもちゃんと話をしておかなきゃな」
 出かける前、龍星はいつもの軽いノリでそう言った。口調と裏腹に眼差しは真剣そのものであったが、友樹はそれをあえて無視した。
(二人にとって、今日は特別な日ってことか……)
 安いが手入れの行き届いた墓石を前に、友樹は一人立ち尽くす。
 父には悪いが、墓参りなどという心境ではなかった。目には分厚いくまが張り、頭は霞でもかかったようにぼーっとして晴れない。
(母さん……)
 日よけの帽子に付いたベールに隠され、千織の顔をはっきり見ることはできなかった。
 だが、その視線の先に映っているのが誰なのか、友樹はもう痛いほどに理解している。
「ふう……」
 ため息がこぼれた。
(暑いな、今日も……)
 朝早くに家を出たのに、吹く風はもう真夏の熱気をはらんでいた。おぼろげに立った陽炎の向こうで、セミが耳障りな鳴き声をこれでもかとばかりにまき散らしている。
「……」「……」「……」
 無言で墓に向き合う三人の間を、線香の香りが緩やかにすり抜けていった。


「さて、と」
 帰宅して玄関に入るなり、龍星は千織をお姫様だっこに抱え上げた。
「えっ……き、きゃっ」
 細い体型に見合わぬ龍星の力強さに、千織の口から乙女を思わせる可憐な声が漏れる。
「一度ここで抱きたかったんだよね、千織さんのこと」


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[ 2017/11/13 11:47 ] 奪われた女たち 母は、親友と | TB(-) | CM(0)
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