「あ、ああ……片付けものしたら入るって」
「ふーん、そっか。じゃあ俺も入ろうかな……一緒に」
「……!」
挑発するように言ってやると、友樹はあからさまに嫌そうな顔をした。一見穏やかだが根は結構感情的なあたり、昔とちっとも変わっていない。
「お前も入るか?」
「い、いや……いいよ……」
「へへ、そうか。じゃあ失礼させてもらうよ。いやー、さっきまで千織さんのこと考えてたらもうギンギンでさ。思い出し勃起っていうのか? これ。思い出し笑いみたいな感じでさ」
「し、知らないよ、そんなの……」
困った顔でうつむく友樹に、龍星はなおもたたみかける。
「まあ、入りたかったらいつでも言えよ。俺はいつも一緒だからさ。譲ってやってもいいぜ。親子水入らずで風呂ってのも悪くないだろ? たまには」
「っ……」
怒ったように眉をしかめたきり、友樹は黙り込んでしまった。
(ちょっときつすぎたかな?)
親友の心情を想像しながら、龍星は心の中でぺろりと舌を出す。
友樹が千織に対して直接的な行動に出られないことは龍星にも分かっていた。あの性格ならせいぜい台所でのセックスをのぞくくらいが関の山。そういう意味では指をくわえて見ていることしかできない親友をかわいそうに思わないでもない。
(でもなあ……)
その一方で、この事態は友樹の自業自得だという冷ややかな気持ちも、龍星の中には確かに存在していた。
そもそも千織を置いて遠くの大学へ行くという選択自体、龍星には全く理解ができない。
友樹は親孝行のつもりだったのかもしれないが、龍星からすればその行為は千織の優しさに甘えただけの、子供っぽい勝手な振る舞いにしか見えなかった。
「大事な人の傍からは離れちゃダメだ。ろくに顔も見れない、話もできないじゃどうしたって寂しくなるに決まってるだろ」
面と向かってそう説教してやりたくなるくらい、友樹は置いていかれる千織の心情に対して無頓着に思えた。
(あんな綺麗な人、油断したら虫がつくに決まってるのにな)
自分の立場も顧みず、龍星はそんなことを考える。
結果として千織を射止めることができたものの、自分だって一歩間違えればみじめな敗者になっていた可能性は十分すぎるほどにあるのだ。
(だからこそ……)
絶対に、手離したくはなかった。
誰が何と言おうと、千織の隣にいるのは自分だけ。
いつまでも、ずっと、この女性(ひと)とともに。
龍星の決心は、駅で再会したあの日から今この時に至るまで、全く、ほんのわずかにさえも揺らぐことはなかった。
「あー、もう我慢できないや」
自らの手でつかんだ幸せの味を噛みしめながら、龍星はすっくと立ち上がる。
「じゃあ俺、ちょっとすっきりしてくるから。友樹もどうぞごゆっくり」
それだけ言い残すと、脱衣所に入った千織の背中を追いかけるようにすたすたとリビングをあとにした。
「っ……!」
背後から、友樹の刺すような視線を感じた。
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