NTR文芸館

寝取られ・寝取り・寝取らせなどをテーマに官能小説を書いています

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愛のすきまで交わって・55

「こらこら、それじゃあ私がまるっきり女を食い物にしているとんでもない大悪党みたいじゃないか。なあ、和臣くん」
「あはは、本当ですね。黛さん、いい人なのに」
 和臣を味方につけると、黛は勝ち誇ったような顔でマスターに笑いかけた。
「ほら見ろ。分かる人には分かるんだよ、マスター」
「いやいや、そいつはどうでしょうねえ。騙されちゃダメですよ、古沢さん」
「ちょっとちょっと、何なんだこの店は。この天下の黛匡一を捕まえて何と無礼な」
「ははは」
 黛とマスターの息の合ったやり取りに、和臣もリラックスした様子で顔をほころばせる。
「で、だ」
 ひとしきり漫才を終え、マスターがその場を離れたところで、黛がそっと声を潜めた。
「その後どうなんだい? 奥さんとは」
 唐突な質問だったが、和臣はその「どう」が何を意味しているのか、すぐに理解した。
「い、いえ、それが、まだ……」
「そうか……不憫な話だ。綺麗な奥さんがいるのに夜の生活が充実しないというのは、何とも間尺に合わん。おかしなことだ」
 黛がやや憤慨したような調子で言うと、申し訳なさそうに和臣がうつむく。
「す、すいません……何しろ、僕が至らないもので……」
「ん? ああ、いやいや。別に君を責めているわけではないよ。何で世の中というのはこうもままならぬものかね、という話だ」
「え、ええ、本当に……」
 情けなく黛に同意しながら、和臣がジントニックを一口、ちびりとすすった。
「ふむ……」
 黛が腕を組んで、何やら考え事を始める。
「よし」
 すぐに、とんちでも思いついた小坊主のようにぽんと手を叩いた。
「どうだろう、和臣くん。ここは一つ思い切って、今晩奥さんと愛し合ってみては?」
「え、えぇっ?」
 和臣は、口に含んだ酒をぶーっと吐き散らしそうになる。
「やはりね、人間意志の力は大事だよ。肉体的な問題がないのなら、あとは気持ちの問題だ。できないからといってやらなければますますできない。つまり何としてもやるという心構えが重要になるんだ。心と身体は、連動するものだからね」
「そ、そういうものですか」
 滔々と演説をぶつ黛に、和臣は目を白黒させながら言葉を返した。
「ああ、そういうものだ。なーに、触れ合ううちに忘れていた感覚を思い出す、ということもあるだろう。結果を気にせず、とにかくやってみること。まずは、そこからだ」
 黛がぽんぽんと、励ますように和臣の背中を叩く。
「……」
 無言のままグラスに口をつけると、和臣は腹を決めたようにこくりと一つ頷いた。
「……分かりました。では今晩、やってみることにします」
「うん、それがいい。じゃあ、私はこれで失礼させてもらうよ。君も今日は早く帰ってやるといい。ああ、マスター」
 黛は無駄のないスマートな所作で二人分の支払いを済ませると、
「では、健闘を祈る」
 最後にそれだけ言い残して、音もなく『BAR・SWAP』を去っていった。


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[ 2018/01/25 11:36 ] 長編NTR 愛のすきまで交わって | TB(-) | CM(0)

愛のすきまで交わって・54


          *   *   *

「少し遅れたかな」
 腕時計を見ながら、和臣は急ぎ足で駅の改札を出た。
 表街道を少し歩いてから、折れ曲がった細道にひょいと足を踏み入れる。
 しばらく進んだ先にぼんやり浮かんできたのは、黄色地に黒文字で『BAR・SWAP』と書かれた小さな看板。
「こんばんはー」
 和臣が軽い挨拶とともに扉を開くと、
「おう、和臣くん。こっちだ、こっち」
 カウンターに座って先に一杯やっていた黛が、にこにこ上機嫌に手を振った。
「ごぶさたですね、古沢さん」
「あ、マスター。どうも、お久しぶりです。何だかご心配おかけしたみたいで」
「いえいえ。またお越しいただけて嬉しいですよ」
 黛と同年代らしいひげ面のマスターと和臣が言葉を交わす。
「さあさあ、話は後にして、まずは一杯飲もうじゃないか」
 割って入った黛が、和臣の肩をぽんと叩いた。
「和臣くんも仕事中はやはりコーヒー派かね」
「そうですね。緑茶も目は冴えるんですけど、何となくトイレが近くなる気がして」
「ああ、なるほど。ドリンク系も悪くはないが、あれはどうも味がな」
「あ、分かります。飽きてきますよね、だんだん」
 和臣が合流してしばらくは、そんな当たり障りのない会話が続く、
「コーヒーといえばこの前、とあるご婦人に自分で仕上げたやつをご馳走してみたんだがね。幸いにして好評を得ることができたよ」
 さりげなく話題の方向をずらすと、黛がぐっと前に身を乗り出した。
「へえ。確かに黛さんのコーヒー、美味しいですもんね」
 以前マスターの目を盗んで振る舞われたコーヒーの味を思い出し、和臣が相槌を打つ。
「でも、黛さん。そのご婦人というのは、ひょっとして、その、恋人とか……」
「いやいや、そういう関係ではないよ。確かに最近のお気に入りではあるが……まあ、あえて説明するなら共犯、というのが一番近いんじゃないかな」
 聞きにくそうに尋ねた和臣に、黛がふふんと鼻を鳴らして語った。
「へえ、それは何だか穏やかじゃないですね」
「なーに、共犯なんていってもそれは物の例え。お互い納得ずくの話だし、誰に迷惑をかけるわけでもないさ」
「いや、黛さんがそういう顔でそういうことを言う時は怪しいんですよ。もう十中八九これに決まってます、これに」
 カウンターから会話に割り込んできたマスターが、小指を立てる少々古臭い仕草を見せた。
「もうね、この人のせいでどれだけ多くの女が泣かされてきたことか。今だって人の知らないところで何をしているか分かったもんじゃないですよ、本当に」
 冗談めかした口調ながらも、そう言ってさらに舌鋒鋭く黛を糾弾する。


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[ 2018/01/24 11:58 ] 長編NTR 愛のすきまで交わって | TB(-) | CM(0)

愛のすきまで交わって・53


 時の流れが、現実へと戻る。
「そう……だよな」
 噛み締めるように、和臣が呟いた。
 昔も今も、希恵子への気持ちは変わらない。
 いつだって希恵子は、和臣にとって最高の女性。誰よりも大事にしなければならない愛妻であり、何よりもかけがえのない存在なのだ。
「なのに……」
 温和な和臣の目が、僅かに険しくなる。
 自分は、ヘマをした。
 生活を、夫婦の関係を、人生を、何もかもぶち壊しにしてしまうところだった。
 今だって、希恵子に大きな大きな隠し事をしている。
 罪悪感はもちろんあるし、もしばれたら全てを失ってしまうという危機感も、借金を作って以来ずっと消えることがなかった。
「でも……」
 まだ、間に合う。
 黛との幸運な出会いにも助けられ、今はまだ土俵際ぎりぎりのところで踏みとどまることができている。
 和臣は、そう思っていた。
 だからとにかく、今は頑張らないといけなかった。
 自分と、自分を支えてくれる黛のために。
 そして何より、大好きな希恵子のために。
「よし」
 自分にできることを精一杯、とことんまでやろうと、和臣が改めて心に誓いを立てる。
「じゃあ、もうひと踏ん張り」
 気を取り直して、またモニターと向き合い始めた。
 だがすぐに、机の上に放り出していた携帯電話のアラームがけたたましく鳴る。
「あ、もうこんな時間か」
 見れば、黛と約束した時間が刻一刻と近づいていた。
「やれやれ、今日はここまでか。まあ、しょうがないな」
 ちょっと拍子抜けした顔でそうこぼすと、和臣はパソコンの電源を落としていそいそと帰り支度を始めた。


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[ 2018/01/23 11:47 ] 長編NTR 愛のすきまで交わって | TB(-) | CM(0)

愛のすきまで交わって・52

「はい」
 意外なことに、希恵子の返事は即答。
「……はい?」
「ですから、はい」
「はい?」
「はい」
「……OKって……こと?」
「はい」
「……」
 しばらく、和臣が黙った。
 そして。
「う、うわひゃああああ!」
 自分がとてつもない幸運をその手につかんだことを知って、突然意味不明な叫び声を店中に響き渡らせた。
「え、お前が!? よりにもよって、お前が!?」
「うーわ、抜け駆け。ねーわー、それ、ねーわー」
「つーか古沢、犯罪行為で希恵子ちゃんを手に入れたなら今のうちに警察行っとけ。な?」
 分不相応にも学内のアイドルを射止めてしまったため、和臣の周囲からはそんな怨嗟の声が次々とあがった。それでも直接言ってくれるのはまだましな方で、本人の知らないところではもっと酷い陰口が公然と叩かれていたらしい。
「何で、僕と付き合ってくれたの?」
 交際を始めてからしばらく経った頃、和臣は希恵子にそう聞いてみたことがある。
 正直言うと、和臣自身も訳が分からなかったのだ。
 見た目も能力もせいぜい十人並みかそれ以下。こんな自分を選んでくれる理由が、和臣にはどうしても思い当たらなかった。
「和臣さんは他の人達と違って怖くなかったから」
 希恵子の答えは、またまたあっさり。
「この人だったら、自分のことを本当に大事にしてくれる。そう思ったの」
 そしてさも当然のように続けてくれたこの言葉は、和臣にとって何にも代えがたい、一生の宝物となった。
「大事に、大事にするよ。希恵子さんのこと、ずっと」
「うん。分かってる。ありがとう、和臣さん」
 たどたどしく宣言する和臣を、希恵子はにっこり笑って優しく受け止めてくれた。
 希恵子と見つめ合った、その時。
 何だかいつもより、世界が明るくなったような気がした。
 あの頃、全てが――幸せだった。


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[ 2018/01/22 11:46 ] 長編NTR 愛のすきまで交わって | TB(-) | CM(0)

愛のすきまで交わって・51


 和臣が初めて希恵子と出会ったのは、大学のゼミ室であった。
「鎌田(かまだ)希恵子です。よろしくお願いします」
「あ、は、はい。どうも、よろしく」
 恋に落ちるまでに要した時間は、きっかり一秒。
 いわゆる、一目惚れというやつだった。
「あるんだなあ、こういうこと……」
 それまでは「そんなこともあるのかな」程度だった和臣にとって希恵子との出会いはまさに青天の霹靂。大袈裟でも何でもなく、人生観が変わるほどの衝撃を受けた。
 希恵子は入学早々、あっという間にゼミのアイドルになった。
 元々が硬派な民俗学系で女っ気のないゼミだったこともあり、競争は苛烈を極めた。
 後で聞いた話では、クラスでも大変な人気だったそうで、ミスコンでもやればぶっちぎりの優勝は確実という状況だったらしい。
「鎌田さん、いいよなー」
「へっへー、俺希恵子ちゃんって呼んでるぜ。美人だし、性格もいいし、身体とかむちむちですっげーエロいし、もう最高だよなー」
「あー、何でもいいからああいう子とヤりてー。なんかチャンスねーかなー」
「……」
 正直、周囲の連中のがっつきぶりには少々引くものがあった。どれだけ女に飢えているのか知らないが、自分にはとても真似できそうになかった。
 だから和臣はできるだけ節度ある、紳士的な応対をするように心がけた。
 結果として、それは功を奏した。
 交際を申し込んだ日のことは、今でも鮮明に覚えている。
 前日は緊張のあまりほとんど眠れず、目の下にクマを作ったまま大舞台に臨んだ。
 場所は、大学から少し離れた小さなカフェ。
 講義が終わると、よくそこで熱いコーヒーを飲んだ。安い店で、初めて入った時はこれ多分インスタントだ、と心の中で苦笑いしたものだ。
 告白するならこの店で、というのは初めから決めていた。
 安かろうがインスタントだろうが、そんなことはどうでもよかった。とにかく自分の好きな場所で、好きな女の子に気持ちを伝えたかった。
「僕と、付き合ってください」
 ろくな前置きもないまま、和臣は率直にそう言って頭を下げた。
 その一言を口にするために、どれほど勇気を振り絞ったことだろう。あれほど心臓に負担のかかった言葉は、後にも先にも記憶にない。


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[ 2018/01/21 12:05 ] 長編NTR 愛のすきまで交わって | TB(-) | CM(0)