「結婚前には他の男に抱かれたこともあったんでしょう? なのによくあんな――」
「そ、そんなこと!」
さらに続いた言葉は、声を荒らげて遮った。
自分は誰にでも身体を許すようなふしだらな女ではない。ましてや性的能力だけで男を判断することなど、断じてない。
胸に抱いた気高い誇りが、希恵子の憤怒をますます増幅させ、燃え上がらせる。
「ほう? では今まで経験は和臣くん一人ということですか?」
「ええ」
黛の質問に、希恵子は小さく、しかし堂々と頷き返した。
「ああ、なるほど。ふむ、ふむ」
片眉をぴくんと上げた黛が、納得の表情で首を何度も縦に振る。
実は黛の一物、サイズ自体はせいぜい平均より一回り大きい程度でしかない。だが、和臣の短小しか挿入経験がないなら、それがとてつもなく巨大に思えても不思議はなかった。
「そ、それがどうかしましたか?」
「ああ、いや、別に何でもありませんよ」
いくらかむきになった口調で尋ねる希恵子に含むような笑顔で応じると、
「それよりどうです? 身体もなじんで、大分よくなってきたのでは?」
黛はエアロビクスでもするような動きで右に左に腰を振りながら、穴全体をリズムよく掘り抜いてみせる。
「んぁっ! あっ、あぁっ!」
たくましい男根に、どんどん自分自身を押し拡げられていく痛み。そして、その向こうから少しずつ押し寄せる、何となくこそばゆいような情動。
下腹部にかつてない感覚を味わって、希恵子の声は自然と艶めいたものになっていった。
「ふふ……」
抽送を続けていた黛が、不意に背中を曲げて希恵子の顔に唇を寄せる。
「やっ……やめて、くださいっ!」
迫ってくる黛の顔を押し返すと、希恵子は大声ではっきり、拒絶の意を示した。
「キスは……唇へのキスだけは……嫌ですっ!」
「……」
毅然と言い放った希恵子の一言に、黛の目がすっと冷える。
「……なぜです?」
少し間を置いて尋ねたその語調は、怖いくらいに無感情な瞳と同様の、無機質。
「なぜって……言われても……」
意表を突かれたように、希恵子がぐっと言葉を詰まらせた。
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