正面切ってそう聞かれてしまうと、逆にどう答えればいいか迷う。こういった感情について改めて話すのは、何だかとても面映い気分になった。
「その、こういうのは……やっぱり、本当に好きな人とだけ……だと」
照れ臭いのをどうにか我慢して、希恵子が自身の見解を述べる。
「ふっ」
黛は笑った。それも鼻で冷たく、あっさりと。
「それはまた……何とも清らかな心をお持ちなんですね、奥さんは。まるで天使のようです」
「……」
小馬鹿にされたことを察して眉をひそめる希恵子に、黛は皮肉のスパイスを効かせた意地の悪い口調でなおも言い募る。
「素っ裸で大股広げて、他の男の棒をしっかり奥まで咥え込んでおきながら、それでもキスは嫌、あの人とだけ、ですか。いやはや、これはまた実に都合のいい――」
「や、やめてください」
言い返す希恵子の語気が、急に弱くなった。
確かに所詮はこのざま。自分に偉そうなことを言う資格はないだろう。そういう意味では、黛の言葉は圧倒的に正しい。
(でも……)
それでも、希恵子は心の片隅に純粋な愛の居場所を残しておきたかった。その証として唇を守り抜くことが、和臣に対するせめてもの信義だと思った。
「……ふむ。まあ、いいでしょう。ここは一つ寛大に。唇への、キスはなしですね?」
「え、ええ」
唇への、をやけに強調する黛を訝りながらも、とにかく希恵子はそう同意した。
「分かりました。では、その代わり……」
黛が、再び首を下げる。
「ふんっ」
左頬に唇をつけると、ちゅううぅ、と気味の悪い音を立てて希恵子の肌を吸い始めた。
「ひっ!」
あまりのおぞましさに、希恵子が身震いして全身を硬直させる。
だが、黛の責めはとどまることを知らなかった。
「ふっ……むん……はっ……」
少しずつ位置を変えて二度、三度、四度。さらに右頬にも、同様の口撃を加える。
「ぷは」
時折息継ぎを交えながら、おでこ、あごの周り、鼻の下、果てはまぶたにまで舌を伸ばし、希恵子の顔面をぶちゅぶちゅと徹底的になぶり尽くした。
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