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プチNTR8~キミハ、ココマデ~

 人々が騒がしく行き交い、次々と国際便が飛び立つ、空港。
 出発ゲート周辺には、次便に搭乗予定の客達がぞろぞろと並び始めている。
「じゃあ、行ってくるね。ヒロちゃん」
 少女は、目の前に立つ少年を潤んだ瞳で見上げた。
「ああ、気をつけてな。志保」
 少年は、自分を見つめる少女に精一杯の笑顔を返す。
「……」
「……」
 無言のまま、視線を交わす二人。
『……』
 どちらからともなく、キスをした。
 ひゅー、と冷やかすような声と妙に通りのいい指笛が、フロアの数カ所から聞こえてくる。
 だがそんなものは、両者にとって雑音ですらなかった。
「ん……」
「んん……」
 周囲の音が一切届くことのない二人だけの世界で、少年と少女はいつまでもいつまでも愛を確かめ合った。

          *       *       *

 南野浩矢(みなみのひろや)が中村志保(なかむらしほ)と出会ったのは、バイト先のあるファミレスだった。
「南野、今度来た新人だ。仕事を教えてやってくれ」
「は、はい」
 その時点で浩矢のバイト歴は一年半。長く続かない者が多いこの職場では結構な古株扱いとなっていた。
 自然、新人の指導役を任されることも増え、店長にこの台詞を言われたのはこれで四度目。
(またか……)
 普段なら面倒だと思いつつ簡潔に説明を済ませるところだが、その日は違った。
「中村志保です。よろしくお願いします」
「!」
 惹かれるまでに要した時間は、きっかり一秒。
 やや癖のある長い黒髪と、柔和な顔つき。美しく澄んだ大きな瞳が目を引いた。華奢ながらメリハリのあるスタイルに、身体のラインがはっきり出る制服がよく似合っていた。
「あ、ああ……よろしく」
 中肉中背で、可も不可もないルックスのメガネ顔。末は地方公務員などがよく似合いそうな風貌の浩矢だが、この時ばかりは少し気取った口調になった。
「何でバイトを?」
「まあ……社会経験かな。ここ、比較的時給よかったし」
 そんなありきたりな会話から始まった二人が打ち解けるのに苦労はなかった。元々同い年で話も合ったため、バイトの同僚という関係はすぐ仲のいい友達へと進展した。
 両者の間にそびえる「お友達」の壁が壊れ、付き合い始めたきっかけは、バイト中に起きたある事件だった。
「おい、このスープ髪の毛入ってんぞ!」
「え、で、でも……」
「あぁ!? なんか文句あんのか、こらぁ!」
「お客さま」
 柄の悪い長髪の大男に凄まれ、平常心を失う志保を見かねて間に入ったのは、浩矢。
「……ありがとう、浩矢くん」
「お、おう」
 無事に全てが片付いた後に志保が向けてくれた笑顔は、なけなしの勇気を振り絞った浩矢に計り知れないほどの幸福感を与えた。
「お、俺と……俺と、付き合ってください!」
「は、はい!」
 そんな極めてよくあるやり取りを恐ろしく真剣な顔で交わし、二人は交際を始めた。
 だが彼氏彼女になってしばらく経った頃から、志保は頻繁にため息をつくようになった。
「わたしね、留学しようと思ってるの」
「……え?」
 意を決して重々しく語られた志保の言葉は、浩矢にとっても一大事。
「な、何で?」
「ずっと考えてはいたんだよ。でもバイトを始めた時点ではまだはっきり決めてなかったし、なかなか言い出せなくて……ごめんね」
「そ、そう……か……」
 浩矢はしばらく黙って考え込んだ後、
「そうなんだ。す……凄いな、志保は」
 頑張って男を見せることに決めた。
 動揺を隠し切れていなくても、声が微妙に上ずっていても、とにかく彼氏として志保のよき理解者となる道を選んだ。
「本当にごめんね、ヒロちゃん」
「な、なーに。大丈夫さ。ひと昔前ならともかく、今はSNSとかもあるんだし、遠距離でもずっとつながっていられるよ」
「……ほんとに、そう思ってる?」
「お、おう」
「……強がって、ない?」
「う……ま、まあ、全く寂しくないと言えば嘘になるけど、でも留学が志保の夢ならちゃんと応援してやりたいと思ってるんだ。それは嘘じゃないんだ」
「うん……ありがとう、ヒロちゃん」
 しどろもどろの口調で、それでも必死に思いを語る浩矢に、志保は優しく笑いかけた。
「大丈夫。休みになったらすぐ帰ってくるから。それで……」
 そう言って不意に背伸びをすると、浩矢の唇にそっと口づけをする。
「帰ってきた時に、この続き……しよ」
「……え?」
「ふふ」
 呆気にとられる浩矢をよそに、志保はまたにっこりと、天使のような微笑みを浮かべた。

          *       *       *

 海をまたいでの遠距離恋愛は、思ったよりも順調であった。
「うーむ、インターネットとは便利なものだな」
 そんな初めてパソコンに触れたおじいちゃんみたいな言葉を口にしてしまうほど、SNSは浩矢にとって救いの神となった。
 写真や動画の投稿はもちろん、無料通話や生中継だってできる。十時間ほどの時差さえ乗り越えれば、距離の溝を埋めることは十分に可能だった。
 おかげで最近の浩矢はすっかりSNSに入り浸り。部屋に入るとまずパソコンを立ち上げ、アプリを起動させる習慣が染みついている。
「お、更新来てる」
 今日もまた、志保の近況がアップされていた。
 新着情報ありを知らせる見慣れたマークが、画面の上部にちかちかと光っている。
 志保が載せるのは学校の風景や寮の様子、留学生同士の他愛もない一枚や集合写真など微笑ましいものばかり。
 そこに、
「毎日ヒロちゃんのこと思い出してるよ」
「ちょっと寂しい時もあるけど、頑張る」
「大好きだよ」
 などという短いながらも愛情に満ちた言葉がちょこんと添えられているのだ。
「どれどれ」
 期待を込めて呟きながら、浩矢が画像を開いた。
「おお」
 この日上げられていたのは、楽しそうなパーティーの集合写真。ウェルカムの文字が映っているところをみると、おそらく留学生の歓迎会なのだろう。
「うんうん。志保の奴、うまくなじんでいるようだな。友達も増えて……ん?」
 満足げに頷く浩矢の目に、ふと一人の男が留まった。
 褐色の肌に、細身ながら筋肉質の肉体。白く並びのいい歯が、爽やかで健康的な印象をより強く際立たせている。
「へー」
 呟きながら、浩矢はじっと男の顔を見つめた。
「こういう奴もいるんだなー」
 吐かれた言葉に、苛立ちの色はまるでない。
 そう、焦る必要など何もないのだ。
「ヒロちゃんがいたらもっと楽しかったのに」
 何しろ今は、そんな志保からのメッセージを読んだ直後。
 写真に男が映っているくらい、浩矢にとっては何の問題もないことであった。


「さて、と」
 浩矢がすっかり日常のリズムに組み込まれた更新チェックを始める。
「お」
 今日もまた、写真がアップされていた。
「……ん?」
 志保と並んで白い歯を光らせているのは、あの男。
「今日はマイケルとツーショットでーす」
 志保のコメントが浩矢の目に飛び込んでくる。
 どうやらこの男はマイケルというらしい。
 大きく映った画像を見ると、なるほど、その名に見合って若い頃のキング・オブ・ポップを思わせる精悍な風貌をしていた。
「ツーショットでーす、って……」
 浩矢の胸に、ちらりと違和感が走る。
 志保は基本明るい性格をしているが、こういう浮かれた感じのニュアンスで自分の気持ちを表現することはあまりない。どんなに嬉しくても楽しくても、はしゃぎすぎてしまうのは少し恥ずかしいと思ってしまうタイプだ。
「……」
 僅かな苦々しさを噛みしめながら、浩矢は改めてモニターを見つめてみた。
 並んでいる二人の距離はさほど近いわけではないが、それでも仲のいい友人といった感じの雰囲気がぷんぷん醸し出されている。
「もしかして……」
 言い知れぬ不安が浩矢の全身を覆った。虫がもぞもぞ体内を這い回っているような居心地の悪さが、凡庸な顔を自然と険しく歪ませる。
「……い、いや、まさか」
 気を取り直すように、浩矢は小さく吐き捨てた。
「考えすぎ……だよな」
 そして己に言い聞かせるようにぽつりと呟くと、まとわりつく疑念を振り払うように何度か軽く頭を振った。


 さらに、日が過ぎて。
 SNSにまた何枚かの写真が上げられた。
「お、おい……」
 志保とマイケルの距離は、一気に縮まっていた。
 それどころか、肩に手を置いてみたりふざけてハグをしてみたりと、直接身体が触れ合っている場面もちらほら散見された。
「これは、ちょっと……」
 浩矢はパソコンのモニターを凝視しながら考え込んだ。
 元々志保には自分に対して強引に出てくる相手を突っぱね切れないところがある。
 普段はしっかりしていて頭の回転も早いのだが、たまに押しに弱いというか、流されやすい性格が顔をのぞかせるのだ。
 正直に言えば、浩矢が志保と付き合えたのもその気性に助けられた面が大きい。
 バイト先での事件にせよ、その後の告白にせよ、志保が相手に押されることなくはっきりと自分の気持ちを言えるタイプなら、結果はだいぶ違っていたはずだ。
「……」
 傍にいる時はそれも魅力と思えたが、いざこうして遠距離恋愛中の彼氏という立場になってみると、志保の性格は恐ろしく巨大な不安要素となって浩矢に襲いかかってきた。
「い、いや、でも」
 ことさら明るい調子で、浩矢が口を開いた。
「マイケルとはもうすっかりお友達だよー」
 心のよりどころは、志保が付けてくれたこのコメント。
「まあ、向こうはスキンシップが凄いっていうしな。志保自身もはっきり『お友達』と言っているわけだし、無理に連絡するのも焦ってるようで何だし……」
 見えない何かにすがるように、浩矢は自身の「大丈夫」を懸命に補強していった。
 最愛の彼女を疑うわけにはいかない。
 そんなこと、あってはならない。
 俺が信じなくて一体誰が志保を信じる。
「こういうことをちゃんと受け入れてやるのも男の度量! うん、そうだ。そうだよな」
 わざとはっきり大きな声で宣言すると、浩矢は勢いよくアプリを閉じ、すぐさまパソコンの電源を切った。


「……」
 浩矢がモニターの前でただ、青ざめている。
 眼前にでかでかと開かれているのは、情熱的なキスを交わす男女の写真。
 男女とはもちろん、志保とマイケルである。
「っ……」
 浩矢は、言葉を発することができなかった。
 合意の上ではないと言ってほしかった。せめて「冗談」という一言を聞きたかった。
 しかし、いつもなら必ずついている志保からのコメントが、今日に限ってどこにもない。
 言い訳などありはしないということだろうか。余計な言葉を連ねるよりも、この写真一枚の方がよほど事態を雄弁に物語るということなのだろうか。
「くそっ……!」
 浩矢が動いた。さすがにこれはもう受け入れるだの男の度量だの、寝ぼけたことを言ってる場合ではない。
「出ろよ、出てくれよ……」
 SNSでの通話だけでなく、直接電話をかけることも試みた。
「っ……」
 だが、一向に志保とつながる気配はない。
「何なんだよ!」
 浩矢は思わず声を荒らげた。
 ツーショット写真を目にした時。
 二人の距離が明らかに近づいていた時。
 頭によぎった不安を打ち消すための労力を払わず強引に自分を納得させてしまったことを、浩矢は心の底から後悔した。
 今さらどうにもならないと分かってはいても、それでも悔やんで悔やんで悔み倒した。
「志保……頼む……志保……」
 ほとんど末期症状のような呻き声とともに、浩矢は電話をかけ続ける。
「くっ……」
 だが、何度通話を試みても、とうとう浩矢が志保の声を聞くことはなかった。


 日をまたいで。
「……」
 くすんだ顔色に落ち窪んだ両目。見るからに憔悴しきった浩矢が、ほとんど無意識の動作でSNSを開いた。
「ぁ……」
 画像が何枚も、たて続けにアップされている。やはり、志保からのコメントは一言もない。
「……」
 引きずり込まれるように、浩矢が中身を確認する。
「!」
 ほぼ完徹状態ですっかりぼやけていた頭が、いっぺんに覚醒した。
「何だよ、これ……」
 それは、浩矢がまだ一度も目にしたことのない志保の姿だった。
 ストリップのように一枚ずつ服を脱がされていく様子。
 即席で妖艶ポーズを付けた感じの下着姿。
 様々な角度からの――全裸写真。
 最愛の彼女のあられもない痴態が、次から次へと浩矢の目に飛び込んでくる。
 そして、さらなる一枚。
「うっ……」
 決定的だった。
 それは、騎乗位で挿入される志保を下から撮影したショット。ややピントがぶれているのが逆にその場の生々しい空気を正確に伝えている。
 そして他にも体位の違う、いわゆるハメ撮りの写真が数点並んでいた。
「なっ……」
 浩矢は慌てて画像の細かいデータを調べ始める。
 結果、それらの写真は自分が狂気にとりつかれたように電話をかけ続けていた、まさにその時間帯に撮影されたものと判明した。
「そん、な……」
 浩矢の肩が、がっくりと落ちる。
「そんな……!」
 睡眠不足と精神の消耗が一気に重なり意識が朦朧とする中、それでも写真を見返し、隅から隅まで念入りに調べ直した。
 イタズラではないか。
 他人の空似ということだって有り得る。
 いや、そもそもこれは夢だ。自分は悪い夢を見ているに違いない。
 上から下から、そして前から後ろから。あらゆる角度で突きまくられる志保の姿を、浩矢は脳味噌をぐつぐつ沸き立たせながら食い入るように見つめ続けた。
 そして、最後の一枚を見終わった、その瞬間。
「!」
 SNSに、着信があった。
「っ……!」
 驚いたようにびくっと一つ肩を震わせてから、浩矢は恐る恐るモニターを覗き込む。
「志保」
 それは、待ちわびていたはずの名前だった。
 どうしようもなく大好きで、顔を見て、声を聞きたくてしょうがないはずの相手が、画面の
向こうにはいるはずだった。
 ――なのに。
「……」
 浩矢の顔は、青ざめていた。
 今、自分がこの着信に応じたら、果たして何が起こるのか。
 答えなど、もう一つしか有り得なかった。
「ぐっ……」
 ぎり、と歯を食いしばる。
 出たくはない。
 聞きたくはない。
 その、はずだった。
 しかし浩矢の手は、まるで見えない力にでも吸い寄せられるように、机上のヘッドホンへと伸びてしまう。
 始まったのは、生中継。
「んあああああああっ!」
「!!」
 いきなり耳に飛び込んできたのは、ほとんど悲鳴のような志保の嬌声だった。
 その後ろからは、何やらごちゃごちゃとよく分からない言語が聞こえてくる。
 はっきりとは聞き取れなかったし、聞いたとしても具体的な意味はまるで理解できなかったことだろう。
 だが、今の浩矢に通訳は必要なかった。
 聞こえてきたのが男の声で、志保はそれに合わせて獣のようにひいひい喘いでいる。
 その事実だけで、浩矢には十分だった。
「い、いいの。マイケルの、いいのおおおおおっ!」
 後ろから抱きつかれ、容赦なく突き上げられる志保の白く透き通った肌は、モニター越しの粗い画面でもはっきり分かるほどに紅潮していた。
 気持ちも、そして身体も、かつてない昂ぶりに襲われているのは明らかだった。
「あ、ああ……」
 浩矢が未だ触れたことのない魅惑の塊が、ちぎれそうなほどにぶるぶる揺れている。
 綺麗なお椀型であるはずの乳房が、得体の知れない力でも加えられたように醜くぐにゃりと歪んでいた。
「あっ、んあっ、ひゃ、ひあああっ!」
 志保が、まるで精神のたがが外れたかのように狂乱じみたよがり声を繰り出す。
 それを煽るように、マイケルがまた何かを叫んだ。
 浩矢に、その意味は分からない。
 だが、おおよその察しはついた。
 ぎんぎんに怒張した一物を女の穴に突っ込み、激しく抽送している最中の男が叫ぶことなどほぼ万国共通と言っていいだろう。
「だ、出してぇ、マイケル! 思いっきり、中に、出してええぇっ!」
「!!」
 志保の言葉は、結果的に己の推測が正しかったことを浩矢に思い知らせた。
 ――そして、絶頂の瞬間。
「フウゥッ!」
「あ、あっ、あああああっ!」
 マイケルが筋肉を硬直させて射精すると同時に、志保もびくん、びくんと身体を震わせた。
 直後、静止した両者に、えもいわれぬ愉悦の色が浮かぶ。
「フゥ……」
「ふふ」
 視線を絡ませて微笑み合うマイケルと志保の間に、気だるい倦怠が流れた。
 それは、お互いに性的な満足を得たオスとメスだけに許される特別な空白。誰にも割り込むことのできない、幸せの時。
「知らない……」
 かやの外から自分の彼女が種付けされる一部始終を見つめていた浩矢が、ぽつりと呟く。
「こんな志保、俺は知らない……」
 もちろん、その声は志保に届くはずもなかった。
「フッ」
 志保に何やら声をかけて立ち上がると、マイケルは余力十分といった感じの軽快な足どりですたすたモニターに近づいてきた。
「なっ……!」
 同時に、浩矢の目がかっと大きく見開かれる。
「なんだ、これ……」
 目を引いたのは、巨大な肉の塊。
 黒々として猛々しい、オスのプライドを全て股間へと集約したような、マイケルの凄まじい一物だった。
「アー、アー、コニチワ、ヒロヤ」
 打ちのめされる浩矢の前に、マイケルの妙に白い掌がひらひらと、蝶のように舞う。
「シホ、トテモ、ステキ」
 野性的な顔をぬっとカメラに近づけながら、カタコトの日本語を続けた。
「オマ○コ、サイコー」
 親指を立てて浮かべたのは満面の、しかしあからさまに挑発的なニュアンスを含む、笑顔。
「っ……う……」
 浩矢はくしゃくしゃに顔面を歪めながら、ぼろぼろと涙をこぼした。止めることのできない嗚咽が、狭い部屋の中に響き渡る。
「フフ」
 マイケルはちらりと後ろを見やると、酷薄な笑みを浮かべながら半身になった。
 自然、背後に隠れていた志保の姿がカメラのフレームに映り込む。
「は、早くぅ……マイケル、早くうぅ……」
「!」
 浩矢の目に飛び込んできたのは、いやらしく発情したメスの、淫靡極まりないありさま。
「もっと欲しいのぉ……マイケルのおちんちん、もっと欲しいのぉ……」
 一糸まとわぬ姿で大股を開きながら男根をねだるその痴態に、可憐だった面影はもはや微塵ほども残されていない。
「し、志保……志保……」
 うわ言のように繰り返す浩矢の視界に、マイケルがまたすっと入り込んできた。
「コレカラ、モット、ファ○ク。イッパイ、イッパイ、ファ○ク」
 肝心な部分だけ、妙に発音がいい。
「ダケド……」
 汗がにじんでより野性味を増した端整な顔が、いたずらっぽくにやりと歪んだ。

「キミハ、ココマデ」

 白い蝶が優雅にふわりと舞って、
「あ……」
 カメラのスイッチが、切れる。
「あ、あ……」
 浩矢の前に広がったのは、米粒ほどの光もない、暗黒の世界。
「あ……あぁ……」
 世界が、ぼんやりと霞む。
「あ……あああああ……」
 無限に続いているかのように思える深い暗闇が、とめどない涙でにじんだ。



※おまけストーリー『キミハ、ココマデ ――Reverse――』はこちらから!
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[ 2015/05/15 15:32 ] プチNTR | TB(-) | CM(0)
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