「よし、じゃあまずは」
和臣は引き出しを開けると、奥から小さな木の写真立てを取り出して机の上に置いた。
もちろん写っているのは、笑顔の希恵子。
愛妻写真を職場の机に飾ることはこれまでも考えていたが、何となく気恥ずかしくて、結局実行できずにいた。
だが、これはいい機会だ。
自分の愛情を示すために。志を忘れないために。そして何より目の保養に。やるなら、今が一番いいタイミングに思えた。
「これでよし、と」
写真の希恵子に軽く笑いかけると、和臣が気持ちを入れ直すように、うーん、と一つ伸びをする。
その、瞬間。
「……あ、あれ?」
久しく感じたことのなかった脈動が、和臣の股間をどくどくと打った。
「う、うわ……」
おとなしそうな冴えない顔が、初めて性に目覚めた小学生のようにきらきらと輝く。
「嘘、みたいだ……」
さっきと同じ言葉を、また漏らした。
「これなら、希恵子さんと……」
今まで抑えられてきた欲望が、心の奥で一気に芽を吹く。
ツキが、巡ってきた。
ほとんど直感的に、和臣はそう思った。
あの出張以来仕事は順調だし、借金も黛のお陰で帳消しになった。おまけにここ数年ずっと悩んでいたEDまで解決とあっては、いいことずくめすぎて怖くなるくらいだ。
「うん……うん」
幸運を噛み締めるように、和臣が何度も頷く。
夢と希望と、そして愛。
全てがごちゃ混ぜになって、ぐるぐると頭の中を駆け回った。
「よし」
気合いを入れるように、むんと一つ姿勢を正したかと思うと、
「まずは仕事だ。頑張ろう」
和臣は充実感にあふれた顔で、またキーボードをぱしゃぱしゃと叩き始めた。
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