「和臣くんは消費者金融から五百万ほど借金をしています」
「……え?」
この時点で希恵子は既に黛の投じた針に引っ掛かり、決して逃れることのできない状態へと追い込まれていたのだ。
のんびり垂らした釣り糸に掛かったのは、想像以上の大魚。
そして、一度釣り上げられた魚が元の場所に帰ることは、もうない。
「悪くない三ヶ月だったな」
抑え切れない笑みが、黛の口からこぼれる。
今回の件は黛にとってスリリングで背徳感に満ちた、それこそ投資などよりよほど面白い、最高のゲームとなった。
和臣の転がり方が予想より激しかったために出費は少しかさんだが、それでも後悔はない。五百万くらいなら黛には痛くも痒くもないし、希恵子と過ごしたこの濃密で淫靡な三ヶ月にはそれ以上の価値を十分見出すことができた。
「だが……」
それも、今日までのこと。
車を走らせながら、黛は瞬時に頭を切り替える。
これ以上は駄目だと、そう思っていた。
もちろん和臣にばれると厄介だというのはあったが、それより何より、希恵子が自分の物になり過ぎてしまうことが、黛には許せなかった。
まるで娼婦のように媚を売ってくる女。
自分から積極的に男を求め、腰を振りまくる女。
恥じらいも何もなく、ただ性の快楽に溺れるだけの女。
そのどれもが、黛にとっては単なる「願い下げ」の女でしかない。
だが、古沢希恵子という女は、違った。
不貞の相手に嫌悪感を抱き、心ではあくまでも夫への貞操を守ろうとする。身体がどれだけふしだらに疼いても、自ら男を咥え込んで快楽に耽溺することは頑として受け付けない。
希恵子がそういう潔癖な気性の持ち主だったからこそ、黛はこのゲームを期限一杯、存分に満喫することができたのだ。
逆に言えば、そこが崩れるのだとしたら、もう古沢希恵子という女にもう用はない。
兆しは、既に現れていた。
『んっ! んんっ! き、きて! 匡一さん! きてええぇっ!』
『あぁんっ! 匡一さんの、オチンチンが、好きぃっ! 出して! 中に、出してえぇっ!』
これまで、根本的な部分では決して屈することのなかった希恵子の精神が、性的興奮の波に呑み込まれた、あの日。
変化は、歴然であった。
※全文をまとめ読みしたい方はこちらから!
- 関連記事
-