終
三ヶ月が過ぎて、今日はいよいよ、約束の日。
「ま、こんなもんだろう」
和臣の勤める会社への訪問を終えた黛が、満足げな表情で車を走らせている。
和臣への用件は、当初希恵子と約束した通り、借金は返済不要になったと伝えてやること。
「あ、ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
和臣はぼろぼろ涙を流しながら、地面にぶつけるのではないかと思うほどに深々と、何度も何度も頭を下げた。
「……おめでたい奴だな、本当に」
黛の口から、思わず本音が漏れる。
「まあ、騙される人間なんてのは総じてあんなものか」
言葉を続けて、くっくと小さく、ほくそ笑んだ。
黛からすれば、和臣と出会ってからここに至るまでの全てが、ちょっとしたゲームのような感覚でしかなかった。
まずは和臣に投資の成功話を語り、小遣い稼ぎ程度なら簡単と暗に匂わせる。
もちろん実際には連戦連勝など有り得ないが、黛自身の収支は圧倒的にプラスなのだから、別に嘘をついたことにはならない。
そして最低限の知識とノウハウを教え込んだところで、ここから先どうするかは本人次第、ただ結果はどうなっても自己責任とだけ伝えて一旦距離を置いた。
あとは和臣が墓穴を掘るのをじっくりと待って、マイナスが増えてきたところでさりげなく相談に乗ればチェックメイト。
それは言わば、気楽な釣りのようなものであった。
首尾よく事が運んで上玉の人妻が手に入ればそれでよし。目論見が外れたところでせいぜい魚を一匹ばらした程度の話だ。
もっとも、黛には最初から自信があった。
一見伸るか反るかのような話ではあったが、和臣の言動を観察した限り、これは黛にとって分のいい賭けに思えた。もっと言えば、どう考えても有利な結論しか出てこなかった。
果たして黛の勘は的中し、和臣はみるみるうちに身を持ち崩していった。
「わたくし、和臣くんの友人で黛匡一と申します」
「あ……主人がいつもお世話になっております」
希恵子と初めて顔を合わせた瞬間の興奮が、黛の胸中にまざまざと蘇る。
平静を装ってはいるが、その実不安な内心を隠し切れずに表情を固くしているその様子は、写真以上の美貌と相まって黛の加虐心を一気に煽った。
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