「ちょっと失礼」
希恵子の携帯電話を手に取ると、さっき放り出した自分のスマホと並べ、見やすい場所へと置き直す。
「……」
自分の待ち受け画像は、笑顔の和臣。そして黛のスマホには、多分わざとであろう、さっき和臣に向けた発信の履歴が映っていた。
(こんな、ことまで……)
不安と、恐怖と、怒りと、罪悪感と。
混沌としてぐちゃぐちゃになった負の感情が、こぼれた水のように希恵子の心をじんわりと浸していく。
「お、どうやら奥さんも興奮してるようですね。濡れ具合がますますよくなってきました」
「そ、そんな!」
ほとんど反射的に、希恵子は言い返した。
「そんな、ことは……」
しかし、黛の言を完全に否定できるほどの自信はどこにもない。実際、さっきから穴の底のそのまた奥では、仄かなざわつきが芽を吹いて止まらないのだ。
(い、いえ……いいえ!)
希恵子が何度も首を振って、懸命に自分の衝動を否定しにかかる。
これは、自分の中にある恐れや罪の意識を、身体が興奮と勘違いしただけ。
そうだ。
そうに決まっている。
そうでなければ、おかしいではないか。
これだけ和臣に顔向けできないようなことをしておいて、その上興奮などするわけがない。その程度の理性、自分にはまだちゃんと残っている。
「ふん、まあこっちは別にいいんですけどね。奥さんが認めようが認めまいが」
希恵子の葛藤をそう言ってあっさり切り捨てると、
「でも無駄だと思いますよ。奥さんがいくら否定しても、心と身体は連動しています。身体の方が反応するということは、心の方も当然……ということです」
黛は淡々とした調子でさらに続けた。
「……」
何も言い返すことができず、希恵子は黙りこくってしまう。痛いところをちくりと突かれたような気がして、自然と眉がひそまり、身がすくんだ。
「ふふ、黙ってしまいましたね。ではまたこいつの力で、そのいやらしい声を聞かせてもらうことにしましょうか」
勝ち誇ったように言い放つと、黛は希恵子の身体を上からがっちり固めて、腰だけを細かく振るように抽送を始める。
「ん、んっ、んん、んんんっ!」
ベッドに突っ伏す希恵子の声が、口を塞がれでもしたようにくぐもって響いた。
「この一発を出したら今日は終わり。あとは夜に向けての下準備です」
希恵子の頭上からそんな言葉をかけると、黛は乱れ打ちのようなピストンを繰り出し、そのまま一気に射精までたどり着いてみせた。
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