「では、ここからです。今日はあまり時間もないですから、一度で全部覚えてしまうくらいの気持ちで見てください。ひと通り見終わったらテストということで実践してもらいますから、どうぞそのおつもりで」
「そ、そんな、そんなこと……」
「さ、始めますよ」
希恵子の言葉をあっさり遮ると、黛が再生を始める。
「んっ、んんっ、んぁあっ。どうですかぁ、お客様ぁ。キモチいいですかぁ」
ぬちゃぬちゃくちゅくちゅという淫猥な音に女優の甘ったるい声が重なって、室内はあっという間にピンク色の空気で満たされていった。
(な、何で、こんなもの見なきゃ……)
目のやり場に困るように瞳をちらつかせながら、希恵子は心の中でぶちぶちとぼやく。
こんな映像を男と二人で見ることには、当然抵抗があった。気まずいというか何というか、とにかく居心地が悪くてしょうがない。
(だけど……)
自分に、何か拒否権があるわけではなかった。
いかにあがいてみたところで動かしようのないその現実が、希恵子をいっそうやり切れない気持ちにさせる。
「っ……」
黛の仕打ちに怒りを覚えながらも、とにかく希恵子は大きな液晶画面を見つめた。
仕方のないこと。
やむを得ないこと。
自分自身にそう言い聞かせながら、見ているだけで赤面しそうなプレイの数々をできるだけ忠実に記憶へと焼きつけていく。
「さて」
しばらくコーヒーをすすっていた黛が、静かに立ち上がった。
「よい、しょっと」
浴室に入ると、スモーキングガラスの向こうで何やらごそごそ動き始める。
「……?」
不審な挙動に意識を奪われ、一瞬テレビから目を離した希恵子だが、
「ああ、こっちは気にせず、勉強に集中してください」
「は、はい」
気の散った生徒を叱る家庭教師のような言葉を黛にかけられ、慌てて画面へと目を戻した。
――そのまま、しばらくして。
「終わりましたね? では服を脱いでこちらに来てください」
AV鑑賞を終えた希恵子が、黛の招きで浴室へと足を踏み入れた。
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