「う、うぅ……」
「ふん」
今にも泣き出さんばかりの希恵子をちらりと見やると、黛は加虐の欲望を大いに満たされた表情で薄く笑う。
「さて、では続けるとしましょうか」
そう言っておもむろに身体の位置をずらすと、責めの軸足を顔へのマーキングからテンポのいい抽送に戻した。
「ふっ、ふん、ふんっ、はっ!」
「んっ、あ、あっ、あぁっ!」
徐々にピッチを上げる黛に引っ張られ、希恵子の声もだんだんと大きくなる。
うずうず感というか、むずむず感というか、とにかく何とも不可思議な感覚が身体の奥からこんこんと湧き出て、下腹部を中心に全身へと拡散していった。
(な、何で……何で……)
希恵子はほんのり上気した顔を歪めながら、目を閉じ、首を横に振る。
確かに、久し振りではあった。
和臣と夜の営みを行わなくなってからも一人で慰めることはほとんどなかったし、他の男を相手にするなどという破廉恥な選択肢は最初から論外のまた外だ。
欲求不満。
有り体に言えば、そういうことなのかもしれない。
(だけど……)
希恵子は、自分が黛によって身悶えさせられている事実を、受け入れたくなかった。
自分は満たされている。
性的なことなどなくても夫への愛は変わらない。
わたしは今のままでも十分すぎるほど幸せ。
そうはっきりと言い切って、今後もこれまで同様に献身的な妻であり続けることが、自身にとって唯一最善の道だと信じたかった。
金の力にまかせて他人の妻を寝取る。
そんな恥知らずなことを平気でするこの男に、これ以上自分の弱みを晒すような真似はどうあってもしたくなかった。
なのに、現実はどうだろう。
「あっ、あっ、あっ、あっ、ああぁっ!」
確実に強さを増す黛の動きに合わせ、いや、それどころかさらに激しい挿入を促すように、腰の位置を前へ前へとずらしているではないか。
(何て、いやらしい……)
希恵子が今、自分自身に何か言葉をかけるとしたら、それしかないように思えた。
最低の男に身を任せた挙句、淫乱な情婦のように己の欲望を解き放ちつつあるこの現状は、希恵子を何とも情けなく、惨めな気分にさせた。
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