NTR文芸館

寝取られ・寝取り・寝取らせなどをテーマに官能小説を書いています

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愛のすきまで交わって・70

「あ、は、はい。すいません」
 和臣が慌てたように両手を迎えに出すと、
「えっと、そっちが和臣さんよね。じゃあこっちがわたしで」
 希恵子も同様に、あたふたと受け入れの準備を始める。
「そのままお待ちください。こちらでいたしますので」
「あ、そうか……」
「あ、あはは」
 ウエイトレスの冷静な一言に、和臣と希恵子は揃って恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。
「そ、そういえばあの時も同じことをしたような……」
「そ、そう、だったかしら」
 余計なところで昔の記憶をほじくり返す和臣にはそう言ってとぼけた希恵子だが、頭の中で考えたことはまるで同じ。
(ああ……)
 希恵子は、確信した。
 同じ時を過ごし、同じ記憶を一生にわたって共有することができる、幸せな二人。あの頃も今も、そしておそらくこれからも、自分達の関係は何も変わることがないのだ、と。
(食べ終わったら、話をしよう)
 改めて、心の中でそう決意を固めたところで、
「では、どうぞごゆっくり」
 手際よく準備を終えたウエイトレスが、もう一度綺麗なお辞儀をしてテーブルを離れる。
 ひとしきり態勢が整って、ほどなく食事が始まった。
「よかった。味は落ちてないみたいだね」
「うん、相変わらず美味しい」
 当たり障りのない感想を述べ合いながら、希恵子はどう話を持ち出すか、あれこれと思案を巡らせていく。
 ――だが。
「いやー、でも本当によかった。黛さんに相談して」
 和臣の口に、突然その男の名がのぼった。
「!」
 瞬間、希恵子は大きく目を見開いたまま、全身をびくんと硬直させてしまう。
(なっ……)
 全てが、消えた。
 今の今まで積み重ねてきた思考は一瞬にして吹き飛んで、あとは冬の雪原のように真っ白な空間が、ぽかんと心に広がるばかり。
「……なん……で?」
 ようやく、声を絞り出した。
「え? あっ……い、いや、その……実は、さ……」
 自らの失言に気づいた和臣が、申し訳なさそうにこれまでの経緯を説明する。
 出張が決まって、希恵子が落ち込んでいるように見えたこと。
 出かける前に何かしたいとは思ったが、いい案が浮かばず黛に相談を持ちかけたこと。
 黛のアドバイスもあって、この店での食事を選んだということ。
「ご、ごめん。本当は全部自分で決められればそれが一番なんだけど、なかなか……。それに黛さん、こういう時凄く的確な意見を言ってくれるもんだから、つい頼っちゃって……」
「……そう」
 いつになく言い訳がましい言葉を連ねる和臣に、希恵子は一言、ぽつりと返した。
「そ、そういえば」
 希恵子の反応を静かな憤りと受け取ったのか、和臣が逃げるように話題を変える。
「料理が来る前、話が途中になっちゃったよね。希恵子さん、何か言いたそうにしてたみたいだけど……」
「え? あ、ああ、いいの。もう忘れちゃったから、大したことじゃないと思う」
 何食わぬ顔でそう答えると、希恵子はまだ手付かずの皿にスプーンを伸ばした。
「あ、こっちのスープも美味しい。飲んでみてよ、和臣さん」
「え、あ、ああ……あ、ほんとだ。いい味だね」
「でしょ。今度作ってみようかな」
「うん。希恵子さんの腕ならいい線行けるかも。楽しみにしてるよ」
「ふふふ。じゃあ、期待しないで待っててね」
 にこやかな笑顔に戻った希恵子が黛の件を話そうとすることは、それ以降一度もなかった。


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[ 2018/02/09 11:34 ] 長編NTR 愛のすきまで交わって | TB(-) | CM(0)

愛のすきまで交わって・69



 静かな店内でも一番落ち着いて話ができるとおぼしき、窓際端の二人席。
 注文を済ませて料理が来るのを待つ間、希恵子と和臣の話題は自然に昔の思い出へと移っていった。
「わたし、まさかあのカフェで告白されるとは思ってもみなかった」
「だ、だって、あの頃はあそこが一番のお気に入りだったし……」
 希恵子の発言に、和臣がもごもごと口ごもる。
「ふふ、そうよね。和臣さん、しょっちゅうあそこのコーヒー飲みに行ってた気がする。でももう少しロマンチックな場所はなかったの?」
「う……だ、だからプロポーズはその反省を踏まえてここにしたんじゃないか」
 少々意地の悪い口調で尋ねる希恵子に、和臣は決まり悪そうな顔でぼそりと言い返した。
「プロポーズかあ……何だか懐かしいなあ。もうずーっと昔のことみたい」
 遠い目で窓の外を眺める希恵子に、和臣が首を振って語りかける。
「僕はまだ昨日のことのようだよ。あの時には付き合いも結構長くなっていたから最初の告白よりは少し余裕があったけど、それでも心臓はずっとばくばくいってた」
「うんうん、覚えてる。あの時の和臣さん、すっごくかわいかった」
「か、かわいいって……じゃ、じゃあ、今は?」
「え? 今? うーん、今は……素敵、かな。あの頃よりも、ずっと」
「……き、希恵子さん……」
「も、もう、やだ」
 感激の面持ちでまじまじと自分を見つめる和臣の視線を、希恵子は照れ臭そうに下を向いて受け流した。
「でも、わたしは、もう……」
 うつむいたまま、口が開く。
「そんなことはないよ」
 希恵子の言葉を遮るように、和臣が痩せた身体をぐっと前に乗り出した。
「希恵子さんは昔も今も、そしてこれからもずっと綺麗だ。少なくとも僕にとっては、永遠に君が一番。何があったって、それが変わることはないよ」
「……和臣、さん……」
 希恵子がぽかんとした顔になる。
「あ、あはは」
 言い慣れない気障な台詞を気張って口にしたせいか、和臣は頬を紅潮させながら、いかにも居心地悪そうな様子で視線をあちこちに彷徨わせた。
「……」
 恋愛に慣れない子供を思わせる夫のそんな姿を、希恵子は愛おしそうに、黙って見つめる。
(やっぱり……今、ここで話そう)
 そんな考えが、前触れもなしに胸の奥からむくむくと持ち上がってきた。
 それが、最善の選択に思えた。
 この人にこれ以上、隠し事なんかしたくない。
 この善良で優しすぎるほどに優しい夫を裏切り続けることが、希恵子にはどうしようもなく忍びなかった。
 お互いに偽りなく、今の気持ちをありのままにぶつけ合えば、どんな困難だってきっと乗り越えられる。
 今聞いた和臣の言葉に全てを賭けてみようと、思った。
『また、ここから始めてみるのもいいかと思って』
 和臣はさっき、そう言った。
 その通りだ。
 ここから、もう一度始めるのだ。
 積み重なった嘘や裏切りをお互い全部放り捨てて、何もかも初めから二人の夫婦生活をやり直していくのだ。
 和臣と自分なら、それは、可能なはずだ。
「あ、あのね、和臣さん――」
 勢いのままに、希恵子が話を切り出そうとする。
 ――だが、まさにその時。
「お待たせいたしました」
 料理を運んできたウエイトレスが、二人に向かって恭しく一礼を捧げた。
 食欲を誘うスパイスの香りが、湯気に乗ってぷんと希恵子の鼻をつく。
「あ……」
 思わずそちらに意識を奪われてしまい、希恵子は続きをためらうように口を閉ざした。


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[ 2018/02/08 11:47 ] 長編NTR 愛のすきまで交わって | TB(-) | CM(0)

愛のすきまで交わって・68


          *   *   *

「あら? このお店……」
 いつになくおしゃれをして化粧もしっかり決めた希恵子が、見覚えがあるといった顔で目を上に向け、それから辺りをきょろきょろと見回した。
 和臣に連れられてやって来たのは、こじんまりした洋館造りの瀟洒なレストラン。
 席数は少なく、値段も決して安くはないが、落ち着いた雰囲気と丁寧な接客、そして何より美味しい料理で長い人気を保つ名店である。
「覚えてる、よね?」
「ええ、もちろん」
 和臣の質問に、希恵子はすぐそう返した。
 忘れることなど、あるはずがない。
 ここはかつて、和臣が自分にプロポーズをしてくれた場所。しゃれた食事になど縁も興味もないこの人が自力で調べ、精一杯選んでくれた店だ。
「ちょうど五年だしね。また、ここから始めてみるのもいいかと思って」
「和臣さん……」
 昔も今も財布には優しくないが、二人の愛を確かめ合うには、やはりここが一番。
 和臣のそんな心意気が態度や言葉の端から透けて見えてくるようで、希恵子は何だか無性に嬉しくなった。
「さ、行こうか。予約はしてあるから」
「……うん」
 先に入ろうとする和臣の腕にそっと手を回すと、希恵子はぴったりと寄り添うように身体を密着させる。
「え、え? どうしたの? 急に」
 面食らったような顔で、和臣が希恵子を見つめた。
「だって、またここから始めてみるんでしょ?」
 うろたえる夫をおかしそうに見上げながら、希恵子がさらに言葉をつなぐ。
「だったら、わたしも。今日はあの頃の気分で。ね?」
「希恵子さん……」
 和臣はしばらく黙ってから、覚悟を決めたようにこくりと一つ頷いた。
「よ、よし。じゃあ、行こうか」
「うん」
 踏み出す和臣に、希恵子も初めて恋をした少女のように微笑んで歩調を合わせる。
「こんにちはー」
 入口の扉が開いて、呼び鈴がちりんちりんと涼しげな音を鳴らした。


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[ 2018/02/07 11:40 ] 長編NTR 愛のすきまで交わって | TB(-) | CM(0)

愛のすきまで交わって・67

「じゃあそのご期待に添えるよう、できるだけ真剣に考えて、自分なりの答えを出してみるとしようか。次の一杯が来るまでにね」
「お、お願いします!」
「ふむ……」
 空いたグラスをコースターに置くと、黛は思案顔で黙考を始めた。
「やはり、食事だろうな」
 しばしの間を空けた後、太い声でゆっくりと口にした言葉は、簡潔にして明瞭。
「食事……ですか」
 釈然としない様子の和臣が、鸚鵡返しをしてさらに続ける。
「確かに定番だとは思いますけど、その、もっと何か特別なことをした方がいいんじゃ……」
「いやいや、和臣くん。勘違いをしてはいけないよ」
 どことなく不安そうな和臣に、黛は鷹揚な態度で諭すように言い返した。
「人間にとって誰かと一緒に食事をとる、という行為は十分に特別な意味を持つものだ。同じ釜の飯を食うなんて言葉もあるし、君の作った味噌汁を飲みたいなんていうのはプロポーズの古典だろう。もっとも、最近ではどっちが味噌汁を作る側なのか分かったもんじゃないが」
「はは、本当ですね」
 冗談混じりにそう言って肩をすくめる黛に、和臣も人のいい笑顔で応じる。
「ともかく食事は重要。そしてさらに重要になるのが共通の記憶……まあ思い出だな」
「思い出……ですか」
 聞き返す和臣に、黛がうむ、と小さく頷いた。
「そう考えると二人で一緒によく行った店、なんていうのが一番いい。食事と思い出が確実に結びつくからね。そこで出会った頃のことなんかを話し、これまでの感謝と今後もよろしくの気持ちを伝える。そうすれば、きっといい時間を過ごすことができるんじゃないかな」
「は、はい。はい、はい」
 ボブルヘッド人形のようにかくかくと首を振る和臣に、黛がいたずらっぽく笑いかける。
「うまくいけば夜の方だって……な?」
「あ、い、いや、それは、その……」
 途端に、和臣は赤面してうつむいてしまう。
「ははは。これはちょっとしつこかったかな。ともかく、二人の記念日を二人で一緒に祝うというのは大事なことだよ。そしてキーワードは、食事と思い出だ」
 詐欺師のような饒舌を振るって話をまとめた黛に、
「な、なるほど。さすがは黛さんです」
 和臣はすっかり感服した様子で深々と頭を下げた。
「なに、そんな誉められるようなことでもないさ」
 軽く手を上げて謙遜する黛の笑顔は一見、穏やか。
 だがよく見ればその目つきは野獣のように獰猛で、腹の奥によからぬ感情をふつふつと沸き立たせているのは一目瞭然である。
「とんでもない。これで何とかなりそうです。本当にありがとうございます」
 それでも和臣は、かけらほどの疑いすら抱くことなく、ただ黛に感謝の念を捧げた。
「いやいや。まあお役に立てるなら何よりだがね。ふふふ」
 己の言動全てがこの男のどす黒い欲望の火にじゃぶじゃぶ油を注いでいることなど、まるで知る由もないままに。


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[ 2018/02/06 12:19 ] 長編NTR 愛のすきまで交わって | TB(-) | CM(0)

愛のすきまで交わって・66



 ――そして、夜。
 ほぼ指定席のようになっている『BAR SWAP』のカウンターには、やけに真剣な顔をした和臣と黛が、肩を合わせるように二人並んで座っている。
 安い梅酒サワーに頬を紅潮させながら何やら必死に語る和臣と、高級なコニャックを優雅に楽しみながらその話に耳を傾ける黛という構図だ。
「結婚記念日……ああ、なるほど。そういうことか」
 いかにも合点がいったという顔で黛が頷くと、
「そういうこと? どういうことですか? 黛さん」
 和臣が不思議そうに首を傾げる。
「ん? ああ、いやいや。君との電話、雰囲気がいつもと少し違っていたもんでね。何かなと思っていたんだよ」
「ああ、そういうことですか」
 ぺらぺらと出まかせを並べて取り繕う黛に、和臣はあっさり納得の表情を浮かべた。
「そうか、結婚記念日か。独身男には縁のない話で、羨ましい限りだな。いつだい?」
「来週の木曜日です」
 和臣の答えに、黛は驚いた顔で目を丸くする。
「何だ、もうすぐじゃないか」
「そうなんです。なのに、急な出張で……」
「うーむ、それは残念だな」
 いかにも和臣と感情を共有していると言わんばかりの調子で、黛はさらに言葉をつなぐ。
「こんな生き方をしている私が言うのはおかしな話かもしれんが、雇われ人というのは何とも厄介なものだね」
「ええ、全くです。でも、断るわけにはいきませんし……」
「ふむふむ。それで奥さんをどうすればいいか、という相談かい?」
 困った顔で唇を噛みしめる和臣に、黛は先回りで話を進めた。
「そ、そうなんです。どうフォローすればいいんですかね? こういう場合」
「どうフォローすればと言われても、私はずっと独り者なんでね。夫婦のこと、ましてや結婚記念日に急な出張が入った場合の対処法なんて想像もつかんよ」
 前のめりに質問する和臣を抑えるように両掌を向けながら、黛が苦笑を浮かべる。
「そんなの関係ないですよ。黛さん、いつでも的確なアドバイスをくれますし、僕なんかよりずっと人生経験豊富そうですし」
「おやおや、これは随分と信頼してくれているみたいだね」
 持ち上げる和臣に相好を崩してみせると、黛は手元のグラスに口をつけ、残りの酒を一気にあおった。溶けた氷がぶつかり合って、カラカラと耳触りのいい音が二人の間に響く。
「お代わり。同じやつを」
 グラスを磨くマスターに注文を出してから、黛が和臣へと向き直った。


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[ 2018/02/05 11:59 ] 長編NTR 愛のすきまで交わって | TB(-) | CM(0)