「まあ、惜しいといえば惜しい女だが……」
残念そうな声で、小さく漏らす。
黛がたった一人の女にこうも入れ込んだのは、もしかしたら初めてかもしれなかった。
女には不自由していないが、顔や身体、さらには声や細やかな仕草に至るまで、希恵子ほど性の欲求をかき立ててくれる相手は他にいない。
「でも、だからこそ、だな」
ぼそりと、踏ん切りをつけるように呟く。
惜しいからこそ、これ以上は駄目なのだ。
これ以上やると希恵子は完全に「願い下げ」の女になり下がってしまうだろう。
少しばかり未練があるからといってだらだらと関係を持ち続ければ、すぐに気持ちは冷えてしまい、欲望は夢から覚めたように萎える。
たかだかゲームとはいえ、この関係は自分の手で作り上げた、一つの作品。
自ら造り上げた砂の城を、自分の足で蹴り壊してしまうような真似をするのは、黛としてもやはり忍びなく思えた。
希恵子に対して、バランスを崩さない範囲でやりたいことはひと通りやった。
ならば、あとは予定通り事を進めた方がさっぱりするだろう。
そう、世の中は何事も引き際が肝心なのだ。投資も、そして――ゲームも。
「それにしても……」
黛が助手席に無造作な状態で放り出されている五枚のDVDをちらりと見やった。
中身はもちろん、希恵子との情事。
金にあかせて買い漁った高性能パソコンと編集ソフトを駆使して完成させた、黛匡一渾身の力作である。
なぜいつも近場のホテルで同じ部屋なのか。
そんなのは長い時間部屋を押さえて撮影の環境を整えるために決まっていた。
ついでに言うなら、自宅の中をうろついたのは小型のカメラを設置するため。まさか本気であんな安普請のお宅探訪などするはずもない。
「さてさて……」
黛は思案を始めた。
きらきらと無機質に光る、五枚のディスク。
いつものように棚に並べ、コレクションとして楽しむことは確定だが、果たしてそれだけでいいものだろうか。
ネットに上げるのはあまり趣味じゃないが、一つの手段としてはありだろう。
記念品として希恵子に贈呈するのも悪くないように思える。
だが、それならいっそのこと和臣に送りつけてやった方が、展開としては面白くなるのではないだろうか。
「うーむ……」
このスリルと快楽に満ちたゲームに、どんなエンディングを用意するか。
黛の予定は現在のところ、全くの白紙である。
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