畳に正座した龍星が、神妙な面持ちで千織と向き合っている。
足元に敷かれた布団は当然のように一組。この状況が、これから行うことの意味をいやでも思い知らせてくれる。
「そ、その……本当にいいの? 龍星くん」
落ち着かない様子で話しかけてくるのは、千織。
丈の長い純黒のキャミソールから伸びた足を横に揃え、見えない壁にしなだれかかるように座っている。着痩せするタイプなのか、服の上から見るより胸や腰回りがむちっとしており、その妖艶さがまたむらむらと男の劣情を誘った。
「初めての相手がこんなおばさんなんて、後悔するんじゃない?」
「そ、そんな!」
不安そうに尋ねる千織に、龍星は思わず声を荒げて答えた。
「後悔なんて、そんなことは絶対にない! お、俺にとっておばさんは、全部、その、ど、どストライクだから!」
言い終えると同時に、顔がかーっと火照るのが分かった。
生まれた直後から両親がおらず、親戚の家をたらい回しにされる環境で育ってきたせいか、自分の気持ちを伝えるのはどうも苦手だ。
こんな言葉では、全然言い足りなかった。
千織がいかに魅力的な女性か。そして自分がその美しさにどれほど胸を焦がしているのか。肝心なことをまるで伝えられない己の無力を、龍星は歯ぎしりをして呪った。
「どストライク、か……うふふ、そんな直球で来られると何だか照れちゃうわね」
しかし千織の方はまんざらでもなかったようで、若い男の拙い賛辞をはにかむような笑顔で受け止めてくれた。
「それにしても……」
黒目がちの瞳が、ちらりと下に動く。
「土木のお仕事、やってるのよね? 龍星くん。さすが、すごくいい体格してる」
「あ、ありがとう。最近は管理の仕事も増えてきたから、少したるんでるけど……」
千織の言葉に頭を下げると、龍星は何やら急に恥ずかしくなって目を逸らした。ほんのりと粘り気を含んだ女の視線に、胸板のあたりがじんわりと熱を帯びる。
「っ……」
気を紛らわせるようにあちこち目を泳がせてみるが、所詮はこじんまりとした八畳の客間。結局落ち着く先は、滑らかな曲線を描く千織の肉体しかなかった。
「あの人のバスローブなんだけど、ちょっと小さかったかしら、それ」
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