「!!」
希恵子のぱっちりと大きな目が、さらに丸く、かっと見開かれる。
表示など見るまでもなく、相手が誰かは即座に分かった。
この着信メロディーは昔和臣と見た映画の主題歌。相談して一緒に設定した、お互いだけの特別な曲だ。
「あ、あ……」
和やかな音楽を響かせながらちかちかと光る機体を、希恵子が呆然と見つめる。
単なる偶然か、それとも夫婦の見えざる絆か。
とにかく、和臣からの電話で、希恵子は折れかかった心を一気に立て直した。
「和臣くんですか?」
「……ええ」
尋ねた黛に、希恵子が小さく一言返す。
「ふむ……なるほど、これはいいタイミングだ」
ぽんと手を叩く黛の口元が、いかにも悪事を企んでいますといった感じに醜く歪んだ。
「早く出た方いい。切れてしまいますよ」
身体を起こして一度ペニスを抜くと、黛は希恵子にそう促してそそくさと距離を置く。
「え、ええ……」
急いでベッドを下りた希恵子が、テーブルに手を伸ばして携帯電話を取った。
「は、はい。希恵子です」
和臣との会話が始まる。
「ごめんなさい。ちょっと出先で手が離せなくて。和臣さんは会社から?」
「そう……今日も遅くなりそうなの?」
「ううん、そんなことない。和臣さんがわたしのために頑張ってくれていること、よく知っているから」
そんな当たり障りのない言葉を返しているうちに、希恵子は一瞬自分の置かれている状況を忘れそうになった。
ここはホテルでなく、自分の家。
誰かと一緒ではなく、一人。
もちろん裸でもなく、いつもの地味な普段着。
ついそんな錯覚を起こしそうになるほどに、和臣との会話は自然で、普通だったのだ。
「……ふん」
口端を釣り上げた黛が背後から近づき、両胸をわしづかみにしながら熱い剛直を突き入れてくるまでは。
※全文をまとめ読みしたい方はこちらから!
- 関連記事
-