「で、では……こちらへ」
しつこい愛撫をどうにかやり過ごして、希恵子が次の手順に進む。
「……どうぞ」
湯の張られた浴槽に黛を導くと、石鹸まみれの洗面器を一度洗い流し、マットの傍に座ってローションの仕込みを始めた。
「えっと……」
にゅるんとしたゲル状の物体を器の中にたっぷり投入、適度な固さになるようにぬるま湯でくちゅくちゅと解く。
(何だか、お料理でもしてるみたい……)
希恵子は台所に立ち、和臣のために料理の腕を振るう己の姿を想像してみた。
「……」
だが、イメージとはあまりにもかけ離れた現状に、余計なことを考えたとすぐ後悔する。
「ふぅー、と……」
浴槽でのんびり手足を伸ばしてくつろぎながら、黛が横目でちらちらと希恵子を見やった。
そのやらしい目つきが希恵子には何とも不愉快だったが、だからといってここで手を止めるわけにもいかない。
(こ、こんな感じ……だったわよね)
マットの上にローションをさっと垂らすと、残りを自分の身体にもぺたぺたと塗り広げる。
「ど、どうぞ」
ぎこちなく、黛を誘導した。
「はいはい。よいしょっと」
黛が勃起した一物を両手で押さえながら、マットにうつ伏せとなる。
「……じ、じゃあ、いきますね」
希恵子が、黛の広い背中にのしかかった。
「えっと……」
覚えたやり方を試すように、身体をゆっくり上下させてみる。
「きゃ」
うまく、いかない。
とらえどころのない感じでぬるぬる滑る身体を支えることができず、希恵子は何度も黛から落ちそうになった。
(な、何で?)
さっき見た映像を、懸命に思い出す。
男をうつ伏せにして、その上に乗って身体でこする。手順は何も間違ってはいないはずだ。なのに――。
「……どうかしましたか? 奥さん」
「え? い、いいえ。何でも」
「そうですか。では早く続きを」
「は、はい」
黛に急かされ、希恵子はいよいよ焦りを覚えた。
一体、どこがおかしいというのか。
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