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寝取られ・寝取り・寝取らせなどをテーマに官能小説を書いています

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奪われた女たち――ある妻と娘の場合――・4

「ぐふ、ぐっふふ」
 喉の奥からこみ上げてくるような気味の悪い笑い声をあげると、露木は咲野子の全身に舌を這わせ始めた。
「んっ……んん……あぁん……」
 白磁の名品を思わせる咲野子の流麗な肌が、顔から爪先に至る隅々まで、べたついた唾液でねっとりと汚されていく。
「それっ」
 マーキングを施し終えると、露木は荷物でも扱うように咲野子をベッドへ放り捨てた。
「ほら、さっさと股を開け」
 仰向けに転がった咲野子を見下ろしながら、ぞんざいな口調で言い放つ。興が乗ってくると言葉が荒れるタイプなのか、さっきまでの慇懃な様子はもはや跡形もなく消え去っていた。
「っ……ぅ……」
 恥辱に満ちた呻き声を漏らしながら、咲野子が自分の両膝を裏から抱えて、ゆっくりと女の秘部をさらけ出す。
「お、おお、おおお……」
 細い目をぎらつかせた露木が、猛烈な勢いで咲野子の女陰にむしゃぶりついた。
「こ、これが咲野子の、咲野子のマ○コ。やっとだ、やっと見てやったぞ。何百回も何千回も想像してきたマ○コを、ついに見てやったぞ。ふっ、ふひ、ふひひっ」
 耳障りな甲高い笑い声をあげながら、やや色素の濃い肉襞を長い舌でかき分け、奥へ奥へと侵入していく。
「あっ……んっ……んんっ……」
 咲野子が小さく喘ぎながら、首を何度も左右に振った。身体こそまだ強張っているものの、感度が徐々に上昇しつつあるのは、その仕草から十分窺い知ることができた。
「ひっひ。さあ、入れるぞ、入れてやるぞ。ひひ、うっひひ」
 辛抱たまりかねたように、露木が素早くパンツを脱いで咲野子の上にのしかかった。
「ふんっ!」
「あ、あぁんっ!」
 熱くたぎった男の剛直がぶすりと突き刺され、甘いメスの嬌声が寝室内にこだまする。
「ふはっ、ふははっ! やった、やったぞ! ついに咲野子を、あの稀崎(きざき)咲野子をものにしてやった! やったやった! ざまあみやがれ!」
 湧き上がる喜びを隠しもせず、露木は咲野子を旧姓で呼びながら激しく突いた。
「ふっ、ふんっ、おらっ、おらあっ!」
「あっ、あんっ、あぁっ、あぁっ!」
 独りよがりの乱暴な抽送が繰り返されるたびに、外向きにつんと尖った咲野子の乳房が波を打って小刻みに揺れる。
「どうだ? 俺のは。旦那のよりいいだろ?」
 露木が少しペースを落としてドリルで穴を拡げるように腰を回すと、
「ふ、うぅんっ……!」
 咲野子は吐息のような声音でそれに応えた。
「あ? 何だって? ちゃんと言ってみろ、おら」
 挿入を維持したまま、露木が咲野子の敏感な肉豆をひねり潰すようにきゅっとつまむ。
「ひっ、ひいぃっ! い、いいです! あの人のより、ずっといいです!」
「そうだろうそうだろう! サイズも硬さも、この俺があんなフニャチン野郎なんかに負けるわけないよな! ははっ! はははっ!」
 咲野子の双乳をわしづかみにして、いまだ若々しい弾力にあふれるその柔らかさを思う存分満喫しながら、露木は勝利の雄叫びでもあげるように大声で笑った。
「ぐっ……!」
 罵詈雑言を叩かれた雅文が、悔しそうに奥歯を噛みしめる。
 実際、露木の一物は豪語するだけのことはあった。太さも長さも平均的なサイズをはるかに上回るその肉塊は一見するとグロテスクな怪物のようで、お粗末なペニスがコンプレックスの雅文としてはいやがうえにも劣等感をかき立てられてしまう。
「そら、このまま中に出すぞっ!」
「え、い、いやっ! 中は、中はだめですっ!」
 露木の宣言に、咲野子が血相を変えて腰を引きにかかった。
「うるせえっ! 生中出しの感触が分かんなきゃ試食にならねえだろうが!」
 家中に聞こえるような大声で叫ぶと、露木は咲野子のくびれをがっちりつかみ直し、剛直をさらに膣の奥深いところへと突き立てていく。
「おら、おら、おら、おらぁっ!」
「ひっ! ひぐっ! んひぃ! んあぁっ!」
 ガンガンガンと音でもしそうなほど強く、荒く、咲野子の中が徹底的に蹂躙されていった。
「おお、おおっ、おおおおおっ……ふしゅっ!」
 不意に、露木の動きが急ブレーキでもかかったかのようにがくんと止まる。
「あっ! あんっ! あぁあんっ!」
 同時に咲野子の背中が浮いて、しなった身体が引きつるようにびくびくと震えた。
 二人の間に何が起きたかは、一目瞭然。
(あ、あいつ、本当に中に……!)
 雅文は、身体にある全ての器官がぐらぐら煮えたぎるような感覚に襲われた。怒りに屈辱、絶望と無力感。様々な感情が混沌として、早鐘のように鼓動を鳴らす。


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[ 2016/11/07 11:38 ] 奪われた女たち ある妻と娘の場合 | TB(-) | CM(0)

奪われた女たち――ある妻と娘の場合――・3

「ふふ。こいつはなかなかいい眺めだ」
 優越感に満ちた表情でベッドから下りると、露木はつかつかと咲野子に歩み寄り、形のいい頭にどっかと右足を乗せた。
「っ……!」
「ほら、もっとちゃんとこすりつけろよ。ほら、ほら、ほら、ほら」
 屈辱に顔を歪める咲野子を見下ろし、嗜虐の笑みを満面にたたえながら、汚い足で押し潰すように何度も何度も後頭部を踏みつけにする。
「ぐっ……ぬっ……!」
 雅文は、沸騰した血液が頭に逆流してくるのを感じた。今すぐ部屋に飛び込んで露木を殴り飛ばしてやりたいという衝動が、胸の奥でマグマのようにたぎる。
(だ、ダメだ! こらえろ!)
 両手で自分の腿をがっしとつかみ、上から押さえつけるように握りしめた。
 露木を自宅に泊め、その間に交渉を持ちかけると言い出したのは他ならぬ咲野子なのだ。
『真穂のためですから』
 咲野子は冷たくそう言ったが、言葉の裏に別な意味が隠れていると気づかぬほど薄っぺらな夫婦生活を送ってきたつもりもない。
 長い間連れ添った妻として、どうにか救いの道を探ろうとしてくれている咲野子の思いを、夫である自分がぶち壊しにするわけにはいかなかった。
「へえ、これでも怒りませんか。いやいや、娘を思う母の愛、実に感動的でございますね」
 茶化すように言いながら、露木がゆっくりと足を床に戻した。
「では、その美しき母性愛に免じて、一つ提案して差し上げましょう」
「……」
 咲野子がちらりと、上目遣いに露木を見やる。
「奥さんはとりあえず一晩、僕に奉仕をしてください。その内容に三千万の価値があると判断すれば、ご希望通り全てをチャラにしてあげます。そこまではいかなくても、場合によっては奥さん一人の労働力で返済する契約に変更するかもしれません。まあ、要は奥さんを試食したその結果しだい、というわけです」
「……わたしに……わたしにできることなら、何でもします」
 これ以上の譲歩は引き出せないと悟ったのか、咲野子は神妙な声で言った。
「ふふ、いい心がけです。では、早速身体を見せてもらうことにしましょうか。脱いだら気をつけをして、名前とスリーサイズ、あとカップサイズも言ってください」
 濁った両眼に陰険な喜色を漂わせながら、露木が咲野子に命令を下す。
「は、はい……」
 咲野子は手を震わせながらネグリジェを脱ぎ捨てると、言われた通りの姿勢で口を開いた。
「実原……咲野子です。う、上から、八十六、六十二、八十五。カップはD……です」
「ふーん」
 露木は身体を屈めると、ほんのり脂の乗りかかった咲野子の腰回りをしげしげと眺めた。
「この辺ちょっとサバ読んでる気もしますが、まあそれくらいはよしとしてあげましょうか」
 舌を出すと、先端をれろれろと動かし、下腹部にうっすら残る妊娠線を軽くなぞる。
「うっ……」
 おぞましい感触に、咲野子が眉間に深いしわを寄せながら固く瞼を閉じた。
「ふん。味はまあまあ、悪くなさそうですね」
 そう言って背筋を伸ばした露木が、咲野子のあごをつかんでぐいと引き寄せる。
「ほら、舌を出して」
「ん……」
 微かな躊躇の色を残しながら、咲野子が薄紅の舌先をちろりとのぞかせた。
「ふっ」
「う、んんっ!」
 狭い入口を強行突破するように舌をねじ込まれると、咲野子はたまらず口を割ってしまう。
「ふ、ふんっ、ふぅうっ……」
「ん、んんっ、んぐっ……」
 ねっとりと濃厚な、唾液の交換が始まった。
 二本の舌が、まるで意志を持った別の生き物みたいにうねうねと絡み合う。ぴちゃぴちゃと粘っこい水音はいやが上にも興奮をかきたて、夫婦の寝室をさらに淫猥な場へと変貌させた。
(あ……ああ……)
 雅文はドアの裏側にへばりついたまま、妻の唇が強奪されていくさまを凝視していた。
 握り拳がわなわなと震える。胸が苦しく、息は詰まった。脇の下に一筋、また一筋と流れる冷たい汗の感触だけが、気持ち悪いほどはっきり脳髄の奥に伝わってくる。
(咲野子の唇が、あの柔らかくて瑞々しい唇が、あんな男に……)
 呆然と立ち尽くしたまま、棚の上にある写真立てを見つめた。
 飾られているのは、純白のウェディングドレスに身を包んだ咲野子と似合わないタキシード姿の自分が誓いの口づけを交わしている、人生最高の瞬間を記録した一枚。
 あの日、雅文は幸せだった。
 咲野子という素敵な女性が、ずっと自分の傍にいてくれる。そう考えただけで頭はふやけ、身体はとろけてしまいそうになった。何もかもがバラ色で、これから先の人生、いいことしか起こらないような気分にすらなったものだ。
 それが、今は――。
「ふう……」
 ひとしきり咲野子の口内を貪り尽くすと、露木は満足げな顔でずるりと舌を抜いた。新月を思わせる弧を描いた細い唾液の筋が、糸を引くように二人の顔をすっとつなぐ。


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[ 2016/11/05 16:33 ] 奪われた女たち ある妻と娘の場合 | TB(-) | CM(0)

奪われた女たち――ある妻と娘の場合――・2

 全員がそれぞれの床について、本来ならすっかり寝静まっているはずの時間帯。
「……」
 淡い紫色を基調としたシックなデザインのネグリジェを身にまとった咲野子が、露木の眠る夫婦の寝室へと歩を進める。
 入り慣れた部屋の前に立つと、一度雅文を振り返ってから、小さく二回ドアを叩いた。
「あの……少し、よろしいですか?」
 ほどなく入口が開き、咲野子が深い闇の奥へと吸い込まれていく。
「くっ……!」
 直後、雅文はリビングに敷かれた布団からがばっと跳ね起きると、足音と息を殺して自分と妻の寝屋へと忍び寄った。
 何ができるわけでもないが、だからといって何もせずに壁とにらめっこしたまま悶々と夜を過ごすなど、とてもじゃないが耐えられそうになかった。
(……あれ?)
 咲野子が密室を避けたのか、ドアは僅かに開いていた。
 常夜灯だけをつけているようで中は薄暗いが、それでも様子を窺うことは十分に可能だ。
 これ幸いとばかりに、雅文は細い隙間に目を押しつけて室内を覗き見る。
「どうかされましたか?」
「その……返済の不足分について、なんですけど……」
 裸の上半身にボクサータイプのパンツ一丁という格好でベッドに寝そべる露木に、咲野子は少し距離を置いた壁際で両手を前に重ねながら、探るように切り出した。
「今晩、この一回だけ、わたしを好きにしてください。それで、全てを……」
「チャラにしろと?」
 露木はさも驚いたというように目をむくと、大仰に肩をすくめてくっくと笑う。
「何を言い出すかと思えば、それはまたずいぶん図々しいお願いですね。一晩三千万ですか。もしかして奥さん、普通の主婦に化けたとんでもない超高級娼婦だったりします?」
「そ、それが無理でも、返済はわたしが二人分します。ですから……」
「どうか娘だけはお助けください、と」
 言葉を遮って結論を述べる露木に、咲野子はぺこりと頭を垂れて同意と依願を示した。
「二人分って、簡単に言いますけどね」
 露木が人を小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべる。
「自分の分に加えて、若い娘さんの代わりもってことでしょ? それはちょっと厳しいんじゃないですかね? 体力的にも、スペック的にも」
 そう言うと、咲野子の頭頂から爪先までをじろじろと、粘っこい目つきで眺め回した。
「だ、大丈夫です。元々体力には自信がありますし、身体だって娘にはまだまだ負けません。ですからどうか、どうかお願いします。わたし、精一杯やりますので」
「……ふーん、そうですか。そういえば運動神経も抜群でしたもんねえ、奥さん」
 昔を思い出すような遠い目でぼそっと呟いた瞬間、露木の双眸が、何かスイッチでも入ったようにぎらりと妖しく光る。
「でもそのわりには、さっきから全然精一杯な感じがしないんだよなあ。あんたの態度」
「ど、どういう……ことですか?」
 相手の雰囲気が一変したことを察して、咲野子の口調が僅かに怯んだ。
「人に何かを頼むならそれ相応の振る舞いってものがあんだろ、ってことだよ」
「!」
 高圧的な言葉遣いでほのめかされた露木の意趣を理解して、咲野子が怒りをこらえるようにきゅっと唇を引き結ぶ。
「……お……お願い、します……」
 プライドと腰を同時に折り曲げ、露木に向かって深々と頭を下げた。
「あー、まだ頭が高いなー」
 露木はわざとらしい棒読みで咲野子の誠意を全否定すると、
「そうだなあ……例えばしおらしく三つ指ついて額を床にこすりつけてる女とか、結構いいと思うんだけどなあ、俺」
 続けて傲慢の極みのような申し出をぽんと目の前に放り捨ててみせる。
「み、三つ指で額を床に……!? そ、そんなこと、できるわけが……!」
 耐えがたい恥辱の提案に、咲野子はとうとう声を荒げて不快感をあらわにした。
「あ、そう。まあこっちは、やんなきゃやんないで別にいいんだけど……どうする?」
 もってまわった口調で、露木がにやついた顔を咲野子に向ける。そこに漂うのは、絶対的に優位な人間が時として放つ、腐ったハラスメントの臭いだ。
「……」
 たっぷり十秒ほどためらってから、咲野子がゆっくり動き出した。
 足を折り曲げると、正座の状態から膝の前に両手を置き、頭を下げる。ついた指はそれぞれ親指と小指を除いた三本ずつ。抵抗の意はないと相手に示す礼の所作だ。
(す、すまない、咲野子……俺が、俺さえしっかりしていれば、こんなことには……)
 他人を信じるあまり、軽率に連帯保証人を引き受けてしまった。莫大な借金を抱えたことを会社に知られてリストラされ、次の仕事探しもままならない。挙句の果てには自分の不始末を尻ぬぐいさせるために、こうして最愛の妻を奈落の底へと蹴り落としている。
 あまりにも情けない己への嫌悪感に、雅文は扉の前で胸をかきむしりたくなった。


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[ 2016/11/03 12:29 ] 奪われた女たち ある妻と娘の場合 | TB(-) | CM(0)

奪われた女たち――ある妻と娘の場合――・1

          1

 手狭な2LDKのマンション。
 十畳ほどしかないリビングで、三人と一人がテーブルを挟んで向き合うように座っていた。
「そ、それは、その……」
 実原雅文(さねはらまさふみ)は、着古しのポロシャツから飛び出た人のよさそうな丸顔を青くひきつらせながら、対面に座る男をちらちらと上目遣いに見やる。
「今日こそはしっかりとお返事をいただきますよ、実原さん。全財産を僕に譲り渡して借金の返済にあてる。不足の三千万円分は奥さんと娘さんの労働力により支払う。こちらが提示している条件は初めからずっと同じで、これからも変わることはありません」
 陰険そうな細い目を勝ち誇るように光らせて語ると、露木和鷹(つゆきかずたか)は最高級ブランドのスーツに包まれた細身の体をゆっくり前に傾け、つまり、と続けた。
「あとはあなたの、いや、あなた方ご家族の腹一つ、ということなんです」
 見た目の印象通り冷酷な、唇の片端だけを上げる微笑を浮かべて、雅文の両横に並ぶ二人の女性をじろじろと不躾に見比べる。
「……」
「っ……」
 妻の咲野子(さやこ)はさりげなく、娘の真穂(まほ)は恐怖をあらわに、それぞれ無言で露木から目を逸らした。
 咲野子は三十八歳になるが、凛とした美貌と背中に伸びた艶やかな黒髪、地味なブラウスとスカートの上からでも分かるスタイルのよさは今でも男の目を惹きつける。色の白さと上等な絹を思わせる肌のきめは、まだ二十代といっても十分通用する質の高さを保っていた。
 一方真穂は、母とは対照的に外見も性格も柔和でおっとり。こんもりと盛り上がった両胸を筆頭にむちむちと肉感的な肢体を持っているが、若い娘らしい恥じらいが今日も彼女に身体のラインが目立たないゆったりサイズのワンピースを着用させている。
「……ふん」
 母娘のすげない反応に、露木は眉をぴくりと上げて一瞬不快そうな顔を見せたが、すぐ気を取り直して雅文へと向き直った。
「で、どうなんです? 実原さん」
「い、いや、その……できれば、もう少し待っていただけないかと……仕事も首になって……あ、いえ、でもお金の方は何とかして必ず返しますんで……何というかその、ご慈悲を……」
「ご慈悲って、バカも休み休み言ってくださいよ、実原さん」
 しどろもどろに、それでも必死に譲歩を引き出そうとする雅文を、露木は残酷な言葉で一刀両断に斬って捨てた。
「今回の件、僕はこれ以上ないほどの慈悲をもってことに当たっています。他の人が相手ならとっくの昔に身ぐるみはいで表に放り出しているところですよ。なのに、今回に限ってそれをしないのは、奥様が僕の同級生で決して知らない人ではないからなんです。もっとも……」
 言い聞かせるように淡々と語ると、皮肉っぽい目つきでじろりと咲野子をねめつける。
「奥様は僕みたいな雑魚のことなんか、これっぽっちも覚えておられないようでしたが」
「……」
 咲野子は相変わらず無言で顔を横に向けたままだが、不規則に泳ぐ目線からは隠し切れない動揺を読み取ることができた。
 咲野子と露木は、間違いなく高校の同級生である。そのことは、雅文も咲野子のアルバムを見せてもらって確認した。
 雅文は咲野子の四歳年上で、社会人になってから付き合い始めたため、妻の学生時代はよく知らない。しかし、皆の人気者で生徒会長も務めたという咲野子に対し、露木の方は本人曰く「暗さと影の薄さだけが取り柄の生徒A」。互いの印象度に差が出るのは当然に思えた。
『そういえば高校の頃、誰かに見られている気がすることがよくあって、その視線が冷たいというか、すごく怖い感じがしたんだけど、あの人の目つきにそれと同じものを感じて――』
 初めて露木が自宅を訪れた後、咲野子は不安そうな顔でそんな言葉を口にした。
 雅文はその時、気に病まないように慰めることしかできなかったが、妻の態度から察するに目線の正体は眼前で不遜に笑う露木と見て間違いなさそうであった。
「やれやれ、仕方ないですね」
 露木が呆れたような口ぶりで、わざとらしくため息をつく。
「もう遅いですし、今日はこの辺にしておきましょうか。明日、また同じ時間に――」
「ま、待ってください」
 椅子から腰を上げて玄関に向かおうとする露木に、咲野子が突然声をかけた。
「その……今晩、こちらにお泊まりいただくことはできませんか?」
「……ほう?」
 露木の身体が、巻き戻しのように再び椅子へと沈む。
「明日の朝一番に、結論をお伝えします。ですからどうか、今晩はこちらで……」
 静かな口調で、しかし毅然とした意志を漂わせながら、咲野子は露木に語りかけた。
「……ふむ」
 腕組みをした露木が、尖ったあごをつるりとなでつけながら、何か思案でも巡らせるようにしげしげと咲野子を眺める。
「……ま、いいでしょう。僕も決してヒマじゃないんですが、学園のアイドルであらせられた咲野子様の頼みとあっては、無下にお断りするわけにもいきませんから」
 嫌味なことを嫌味ったらしい口調で言うと、露木はまた唇だけを歪めてふふんと笑った。


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[ 2016/11/01 11:15 ] 奪われた女たち ある妻と娘の場合 | TB(-) | CM(0)